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ケース12 89歳高度認知症患者にドネペジル継続投与は必要か
治療方針を巡り、主治医と薬剤師の意見が“対立”

2016/10/31
青島 周一

 今回の症例は89歳女性、木村節子(仮名)さんです。5年前にアルツハイマー型認知症と診断され、3年前に脳梗塞を発症し、認知機能が一気に低下してしまいました。長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は2点で、高度認知症であることがうかがえます。

 以前は「トイレに行きたい」などの訴えが頻回にあり、夕方になると同居する長女の名前を呼び続ける行動が目立ちましたが、状態は徐々に落ち着いてきており、最近は日中の発語は少なくなりました。たまに、長女の名前を呼ぶなどの行動が見られる日もありますが、そのほかの周辺症状(BPSD)はありません。

CASE#12 89歳女性、木村節子さん(仮名)

既往歴
10年前:高血圧症、脂質異常症
5年前:アルツハイマー型認知症
3年前:陳旧性脳梗塞

検査データ
収縮期血圧130~140mmHg、脈拍70回/分

処方内容
(1)
【般】ドネペジル塩酸塩口腔内崩壊錠5mg    1回1錠(1日1錠)
バイアスピリン錠100mg           1回1錠(1日1錠)
【般】ランソプラゾール口腔内崩壊錠15    1回1錠(1日1錠)
【般】アムロジピン口腔内崩壊錠5mg      1回1錠(1日1錠)
          1日1回  朝食後  28日分
(2)
【般】アトルバスタチン錠5mg         1回1錠(1日1錠)
          1日1回  夕食後  28日分
(3)
【般】エチゾラム錠0.5mg   夕食後1錠、就寝前2錠(1日3錠)
          1日2回  夕食後と就寝前  28日分
(4)
【般】フルニトラゼパム錠1mg       1日1回(1日1錠)
          1日1回  就寝前  28日分

 薬は、いつも木村さんの長女が薬局に取りに来ています。「お変わりないですか」との薬剤師の問い掛けに、長女は次のように答えました。

以前は介護の負担がとても大きくて、大変だったわ。トイレなんて30分おきに行きたいと言うものだから…。それに比べて今はだいぶ楽になりました。落ち着いてきたというか、認知症も進んであまりしゃべらなくなったし。最近気になるのは、母は死ぬまで認知症の薬を飲み続けないといけないのかな、ということ。この薬を飲み始めてからだいぶ落ち着いたのだけど、寝たきりの状態も多くなりましたから。

 副作用が出ているということは特にないようですが、薬をいつまで飲ませればいいのか、娘として漠然とした思いを抱いているようです。

薬剤師:確かに、ドネペジルは認知症の進行を抑える薬であって、認知機能を改善する薬ではありませんね。いつまで飲み続けるかというのは難しい問題ですが、調べてみて継続の必要性が少ないようであれば、先生のご意見も聞いてみようかと思います。いかがでしょうか。

木村さんの長女:ありがとう。そうですねぇ。まあ、特に困っているわけではないけど、必要ないなら飲まなくてもいいわけですからね。

薬剤師:では、次回までに調べておきますね。

認知症治療薬はいつまで飲み続ければいいのでしょうか。明確な基準は少ない印象ですが、日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015』には次のような記載があります。

「継続使用しているコリンエステラーゼ阻害薬・NMDA受容体拮抗薬について、薬剤適正使用の観点から漫然と投与せずに終了を考慮する基準を設ける必要がある。基準としては、(1)進行したアルツハイマー型認知症患者のうち、意思疎通が図れない、寝たきりの状態または身体症状が悪化した患者 (2)明らかに薬剤効果が認められなくなった場合、(3)何らかの有害事象が発生した場合、が挙げられている」

木村さんは(1)と(2)に該当する可能性があります。ただ、副作用が出ているわけではなく、BPSDの症状も落ち着いており、介護者である長女もそれほど困っている様子はありません。なんとなく「いつまで飲むんだろうか」と思っているわけです。

 ここで、木村さんの薬物治療に関して、気になる点を整理してみましょう。

薬物治療、ここが気になる!
・エチゾラム(商品名デパス他)、フルニトラゼパム(サイレース、ロヒプノール他)による認知機能への影響、転倒リスクなど有害事象の懸念。
・89歳高齢者に対するスタチン療法。
・高度アルツハイマー型認知症に対するドネペジル塩酸塩(アリセプト他)の継続投与。

 このほかにも注目ポイントはあるかもしれませんが、今回は特に、高度アルツハイマー型認知症に対するドネペジルの継続投与について考えてみましょう。なお、エチゾラム、フルニトラゼパムに関しては、様々な有害事象の懸念があります(詳細は、書籍『ポリファーマシー解決!虎の巻』[日経BP、2016]にて解説)。ただ、木村さんは自立歩行不可能でほぼ寝たきり、既に認知機能低下が進んでおり、残された余命に対する有害事象発現インパクトが相対的に小さいことを踏まえると、このまま投薬を継続していてもよいのかなと思います。薬剤投与中止に伴う退薬症状発現のリスクも軽視できないからです。

 それでは、今回のケースを考える上で押さえておきたいエビデンスを整理しましょう。

著者プロフィール

青島周一(病院勤務薬剤師、「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)
あおしま しゅういち氏 2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て、12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBMスタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録をブログ「地域医療の見え方」などに書き留めている。

連載の紹介

青島周一の「これで解決!ポリファーマシー」
近年、医療現場では多剤併用(ポリファーマシー)が問題となっています。本連載ではポリファーマシーの具体的な症例を提示しながら、薬学的・医学的な問題点を整理するプロセスや、医療従事者と患者が抱いている薬物療法へのイメージのギャップをどう埋めるかについて考えていきます。論文の読み方は、「症例から学ぶ薬剤師のためのEBM」を参照してください。

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