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ケース11 治療に対する患者の「価値」を踏まえた処方提案
一包化希望の83歳女性が経験した「怖い出来事」

2016/10/04
青島 周一

 今回の症例は83歳女性、吉田ふみさんです。10年近く同じクリニックに通院しており、この間、処方薬の大きな変更はありません。10年ほど前に軽い胸痛を自覚し、狭心症の疑いでニコランジル(商品名シグマート他)の服用を開始しましたが、それ以降、狭心症を示唆する症状はありません。膝の痛みもそれほどひどくない様子ですが、日中の不安症状に対してエチゾラム(デパス他)を服用しており、また、寝付きが悪くブロチゾラム(レンドルミン他)が欠かせないといいます。

CASE#11 83歳女性、吉田ふみさん(仮名)

既往歴
76歳頃:狭心症(疑い)

現病歴
高血圧、逆流性食道炎、変形性膝関節症、開放隅角緑内障

検査データ
収縮期血圧146mmHg

処方内容
(1)
オルメテック錠10mg      1回1錠(1日1錠)
ラシックス錠20mg       1回0.5錠(1日0.5錠)
          1日1回 朝食後  28日分
(2)
【般】エチゾラム錠0.5mg   1回1錠(1日3錠)
シグマート錠5mg       1回1錠(1日3錠)
カロナール錠200       1回1錠(1日3錠)
ミヤBM錠           1回1錠(1日3錠)
          1日3回 朝昼夕食後  28日分
(3)
リリカカプセル25mg      1回1カプセル(1日2カプセル)
          1日2回 朝夕食後  28日分
(4)
ネキシウムカプセル20mg    1回1カプセル(1日1カプセル)
レンドルミンD錠0.25mg    1回1錠(1日1錠)
          1日1回 就寝前  28日分
(5)
キサラタン点眼液0.005%   5mL
          1回1滴 1日1回 両眼

 ある日、吉田さんは処方箋を差し出しながら、「今日はお願いがある」と言って次のように話しました。

 今回から1回分の飲み薬を、朝・昼・夕・寝る前に分けてパックしてもらえないでしょうか。最近、目が見えにくくなったこともあり、小さい錠剤をヒートから出すのが大変なんですよ。

 長らく緑内障を患い、最近はかなり見えづらくなってきているようです。もちろん、ここで一包化調剤するのも良いのですが、吉田さんの思いをもう少し把握したいところです。一包化を希望した理由は、錠剤が取り出しにくいということだけでしょうか。吉田さんが薬物治療にどのような関心を抱いているのか、薬剤師とのやり取りをもう少し見てみましょう。

薬剤師:「お薬を飲みやすいようにパックすることはもちろんできます。ただ、今服用されているお薬の種類がやや多いようですが、最近はいかがでしょうか。飲み忘れや、飲み間違いなどはございませんか?」

吉田さん:「実は先日、このカプセル(リリカ)をもう1つの胃のカプセル(ネキシウム)と間違えて、2回分を1度に飲んでしまったんです。フラフラして大変な思いをしました。だから、間違えないようにしたいと思って」

薬剤師:「そうだったのですね。それは大変でしたね。こちらの用法説明が不十分だったのかもしれません。申し訳ございません。薬をしっかり飲むことも大切ですが、薬の種類も多いので、先生と相談しながら、少しだけお薬を減らしたり、整理できればと思うのですが、いかがでしょうか」

吉田さん:「いえいえ、私が飲み間違えただけですから。袋にはちゃんと飲み方が書いてありましたし…。薬を整理していただけるのはありがたいです。本当のところ、薬の数が多くて困っていたんです。寝る前の薬は手放せないんですけどね…。でも先生の許可も必要でしょう?まだ家に2日分くらい薬が余っているので、明日か明後日にまた取りに来ますよ。その時までに用意しておいてもらえれば大丈夫ですよ」

 どうやら、吉田さんは薬を間違えて飲んでしまい転倒しそうになるなど、怖い思いをしたようです。また、薬剤が多いことに困っていることも分かりました。

 本連載ではこれまで、薬物治療中止を妨げる要因として、治療に対する期待や、薬をやめることへの恐怖といった点を強調することが多かったのですが、一方で、本ケースのように、「薬を減らしたい」との思いを抱いている患者も確かに存在します(参考:Int J Clin Pharm. 2016;38:454-61. PMID: 26951120)。

 薬物治療に対して患者が抱いている思いは、様々な価値観に裏打ちされています。そのことに気付くのは容易ではありませんが、患者が抱く薬物治療に対する価値を、考え(Ideas)心配(Concerns)期待(Expectations)の3つに分けて考えていくと、処方整理がしやすいかもしれません。3つの英語の頭文字を取って「ICE」と覚えておくとよいでしょう。

 では改めて、吉田さんの薬物治療に関して、気になる点を整理してみます。

薬物治療、ここが気になる!
・薬は多いが、どうしたものか。
・エチゾラム、プレガバリン(リリカ)、ブロチゾラムの併用は、ふらつきや転倒リスクが増加するかも…。

 多剤併用事例に直面して困ったら、まずは薬剤を大きく予防的薬剤対症的薬剤の2つに分類してみるとよいでしょう(予防的薬剤、対症的薬剤については本連載総論その3を参照)。吉田さんの処方薬を分類すると表1のようになります(フロセミド[一般名ラシックス]は、心不全治療に用いられる場合は体液貯留を改善する観点で対症的薬剤になり得るが、本ケースでは高血圧治療目的であると考え、予防的薬剤に分類した)。

著者プロフィール

青島周一(病院勤務薬剤師、「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)
あおしま しゅういち氏 2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て、12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBMスタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録をブログ「地域医療の見え方」などに書き留めている。

連載の紹介

青島周一の「これで解決!ポリファーマシー」
近年、医療現場では多剤併用(ポリファーマシー)が問題となっています。本連載ではポリファーマシーの具体的な症例を提示しながら、薬学的・医学的な問題点を整理するプロセスや、医療従事者と患者が抱いている薬物療法へのイメージのギャップをどう埋めるかについて考えていきます。論文の読み方は、「症例から学ぶ薬剤師のためのEBM」を参照してください。

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