今回のテーマは、「患者が困っていないポリファーマシーにどう関わるか」です。早速、仮想症例を見ていきましょう。
76歳男性、田原元治さん(仮名)。きまじめな、口数の少ない男性です。50代から高血圧と糖尿病の治療が開始されました。60歳の頃、生活環境の変化からか、血圧コントロールが不安定となり、また頻脈性不整脈による軽い動悸や息切れなどを経験。それ以来ジゴキシンを服用しています。しかし、その後、生活環境は安定して、頻脈症状はなくなりました。現在では脈拍の異常もなく、疾患コントールも落ち着いています。なお、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の既往はありません。
既往歴
50歳:高血圧
55歳:糖尿病
60歳:血圧コントロール悪化。頻脈性不整脈
検査データ(最新)
血圧142/90mmHg、心拍数90回/分、HbA1c 7.2%
ブロプレス錠8 1回1錠(1日1錠)
ノルバスクOD錠5mg 1回1錠(1日1錠)
ハーフジゴキシンKY錠0.125 1回1錠(1日1錠)
バファリン配合錠A81 1回1錠(1日1錠)
ジャヌビア錠100mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 28日分
メトグルコ錠500mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 28日分
仮想症例の薬物治療において、気になるポイントを整理してみます。
薬物治療、ここが気になる!
・心不全や頻脈症状がないにもかかわらず、ジゴキシンが漫然投与されている。
・頻脈症状はないが、心電図上で心房細動は示唆されていないのか。
・バファリン(一般名アスピリン・ダイアルミネート)の処方意図不明。
これまでの薬局窓口での会話内容などから、田原さんが自分の処方や健康問題に対して以下のような思いを抱いていることが分かっています。

以前は親の相続のことで兄弟でもめて、夜通し話し合ったり引っ越したりと色々あり、体調を崩したこともありました。ですが、薬のおかげで、今は落ち着いています。
これからもしっかり薬を飲んで、いつまでも健康でいたいと思いますね。
田原さんの処方内容と思いを聞いて、読者の皆さんはどんなことを考えましたか? 田原さんは、今現在、頻脈症状が出ていないようですが、少し心配なのは、潜在的に心房細動を有していないかということです。頻脈の原因の一つとして、心房細動が挙げられます。たとえ頻脈症状がなくても心電図などで心房細動が示唆される場合、少し気掛かりなことがあります。次ページから、具体的にエビデンスを見ていきましょう。