日経メディカルのロゴ画像

Betel Quidを噛む習慣は代謝性疾患リスクを50%上昇させる
肥満や糖尿病が急増するアジアへの警告

2013/12/04
高橋 浩=メディカルライター

東京大学大学院糖尿病・代謝内科の山田朋英氏

 インド、台湾などのアジア地域では古くから、噛みタバコのように噛む、Betel Quidと呼ばれる嗜好品がある。ヤシ科植物ビンロウの実(Betel Nut:ビンロウジ)を、水で練った消石灰などとともに葉で包んだもの。アジアや西太平洋地域を中心に世界で約6億人が常用していると言われる。Betel Nutの成分であるアレコリンには発癌性や炎症惹起作用があり、口腔癌などとの関連が指摘されている。最近、このBetel Quidが代謝性疾患とも関連することがメタ解析により明らかになった。東京大学大学院糖尿病・代謝内科の山田朋英氏らが、5つの前向きコホート研究を含む21研究でメタ解析を行った結果、2型糖尿病をはじめとする各種代謝性疾患のリスクをいずれも約50%上昇させることが分かったのだ。同氏は、Betel Quid咀嚼習慣の廃止を啓蒙していくことが、アジアで急増している代謝性疾患を予防するうえで役立つ可能性があると見ている。

 国際糖尿病連合(IDF)の"Diabetes Atlas 2012 update"によると、世界の成人糖尿病患者は約3億7000万人。その6割が中国、インドなどを中心とするアジア人だ。このため、アジア諸国では今後、糖尿病とその合併症がきわめて大きな問題になると危惧されている。アジアでは、糖尿病治療が普及していない地域や十分な医療費を払えない患者が今なお少なくない。したがって、糖尿病や肥満を予防していくことが、糖尿病治療以上に重要な課題となる。

 山田氏らは、代謝性疾患の予防策を確立していくための種々の研究を進めているが、今回は、糖尿病が急増しているアジアで約6億人が使用しているBetel Quidに着目した。6億人と言えば、世界の人口の1割近く。世界の喫煙者約12億5千万人のほぼ半数に相当する。その影響を検証することは大きな意味があると言えよう。

 山田氏によると、Betel Quidは、スライスしたBetel Nutを、水で練った消石灰を塗った葉(コショウ科常緑多年草キンマの葉)で丸めたもの。タバコの葉を混ぜて使用されることもある。ガムのように噛むことで、高揚感、多幸感などの精神興奮作用が得られるとされる。食欲が増進することもある。これらの作用は、Betel Quidに含まれるアレコリンと呼ばれるアルカロイドの働きによると考えられている。

 このアレコリンは、発癌性や炎症惹起作用を有することから、従来より癌との関連が指摘されていた。現在は、Betel Quidそのもの、およびこれを噛む習慣は、タバコ葉の混入の有無にかかわらず、国際癌研究機関(IARC)の発癌性リスクに掲げられている。特に口腔癌や食道癌の重要なリスクとされる。南アジアや東南アジアでは、口腔癌がすべての癌の3割にも及ぶが、その主な原因がBetel Quidだと指摘する研究者は少なくない。北海道医療大学保健衛生学の研究チームは、Betel Quid使用者では口腔内に、Betel Quidによると思われる前癌病変を含むさまざまな病変が認められるが、前癌病変の段階でBetel Quidの使用を止めれば、癌への進展を回避できる可能性があることを報告している。Betel Quidの中止を啓蒙する意義が、少なくとも癌の一次予防において認められたことになる。

 一方で、近年、代謝性疾患や心血管疾患との関連を示唆する報告も増えつつある。そこで山田氏らは、Betel Quidと代謝性疾患や心血管疾患との関係について、メタ解析の手法を用いて検討した。

 山田氏によると、電子データベースの系統的検索により、Betel Quidと代謝性疾患、心血管疾患あるいは全死亡のリスクとの関係を見た約700研究を抽出。これらの研究を2人の観察者が別々に、タイトルと抄録から評価し、89研究に絞った。この89研究を全文評価し、最終的に21研究(解析対象総数約43万人)をメタ解析の対象とした。

 21研究はすべてアジアの研究で、大半は台湾で行われたものだった。21研究中5研究は前向きコホート、他の16研究はケースコントロールスタディ。多くの研究では、年齢、性別、喫煙、心血管疾患の家族歴などの古典的冠動脈危険因子によって調整が行われていた。

 メタ解析の結果、Betel Quidを噛む習慣は、肥満(相対リスク;RR=1.47)、メタボリックシンドローム(RR=1.51)、2型糖尿病(RR=1.47)、高トリグリセリド血症(RR=1.63)、CKD(RR=1.55)、心血管疾患(RR=1.20)、全死亡(RR=1.21)のリスクを有意に増大させることが分かった。すなわち、Betel Quid噛みは、各種代謝性疾患および高トリグリセリド血症、CKDのリスクをそれぞれ約50%、心血管疾患、全死亡のリスクをそれぞれ約20%高める有意な因子であった。高血圧のリスクも45%増大したが、有意ではなかった。

この記事を読んでいる人におすすめ