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東京大学大学院工学系研究科准教授、森村久美子氏に聞く
英語で発表をする前には、すべきことがある

東京大学大学院工学系研究科准教授の
森村久美子氏

 この春、東京大学出版会から「使える理系英語の教科書」が発行された。世界を相手に堂々と自分の意見を主張することができるグローバルリーダーになってほしい――。そんな願いから誕生した同書には、コミュニケーションスキルを身につけるためのノウハウが詰まっている。科学技術英語の特徴を解説しつつ、実践での英語での発表の面白さまでを伝えてくれる内容となっている。著者の森村久美子氏に、執筆の狙いについてうかがった。

―― 先生がこの本で読者に伝えたかったことは、英語で表現することの楽しさだったのではないかと思います。

森村 英語で論文を書いたり、英語で学会発表したり、英語でディスカッションしたりという機会は、理系の学生はもちろんのこと、医学の領域の方々にとっても、これからどんどん増えていくに違いありません。私はそんなチャンスをぜひ生かして欲しいと願っています。

 世界の人口の65億人の中で、英語を第一言語として話す人は約4億人います。第二言語として話す人が約3億8000万人、外国語として話す人は約7億5000万人です。合計で15億人強、つまり全世界の人口の約4分の1が英語を話すのです。英語で発表するということは、より多くの人に知ってもらえるということなのです。

―― 序章で、「私たちは英語をネイティブスピーカーのように話せないからといってものおじしてはいないでしょうか」と問いかけています。「有り余るほどの内容を持ちながら表現をためらってはいないでしょうか」とも。

森村 私は本当にもったいないと思います。

 ためらったりものおじしたりする背景には、島国であることや、200有余年の鎖国経験、または有史以前からの農耕民族としてのコミュニティ形成のあり方などが、文化的な遺伝子(meme)として受け継がれてきたことがあると思います。そのため、海外へ出て行くことへの抵抗感や、外国人が国内に入ってくることへのある種の戸惑い、外国人と話すことの気後れ感などといった、負の感情を抱きがちなのではないかとも思います。

 でも、こうした課題は克服することができるのです。英語でのコミュニケーションのスキルを習得すれば、負の感情を捨て去ることができるのです。スキルを習得すれば英語でのコミュニケーションを恐れなくなります。恐れがなくなれば、自信につながり、さらにスキルは高まっていきます。

―― コミュニケーションスキルを磨くためのノウハウを今回の教科書で著したわけですね。そもそも「理系英語」としたのはなぜなのでしょうか。

森村 現在、東京大学では英語での授業を増やし、留学生と日本人学生がシームレスに学びあい、研究しあえる「バイリンガルキャンパス」の構築を目指しています。たとえば、私が所属する工学系研究科では、10年後には50%の授業を英語で行うという目標を掲げています。

 また、2005年からは、スペシャル・イングリッシュ・レッスンを実施しています。これは、外部英語学校を誘致して、学部の3、4年生の英語力向上を目的として工学部で始まったプログラムです。2010年の4月からは、本郷キャンパス全体で院生・学部生を問わず開講されています。

―― 先生は2006年に東京大学大学院工学系研究科の講師となられ、初期のころから、スペシャル・イングリッシュ・レッスンに取り組んでこられました。今回の教科書は、その中で積み重ねてきたノウハウを集大成したものですね。

森村 理系の学生だけでなく、ビジネスにおいても使ってもらえると思っています。

―― 序章にはじまり、ライティング、プレゼンテーション、ディスカッションの3つの章立てで構成されています。たとえばライティングの章では、「理系の英語論文の書き方」の注意点を示されています。その中では、テクニカルライティングとその前提となるクリティカルシンキング(批判的な考え方)について述べられています。

森村 全体を通して、科学技術英語の特徴にそった解説を加えています。理系の英語論文は、文学的エッセイとはまったく違う表現となるのです。正確で明確に伝達する言葉を使うのが大きな特徴です。正確に、それも明確に伝えるためには、クリティカルシンキングを持っていることが重要です。

―― 私も理系ですが、これまでにテクニカルライティング、あるいはクリティカルシンキングについては、学校では学んでこなかった気がします。

森村 現状でも、テクニカルライティングやクリティカルシンキングを教えている小・中・高等学校は、まだまだ少ないと思います。

―― 具体的なノウハウの部分ですが、たとえば英語論文を書くときの「日本人が陥りやすい問題」もまとめています。

森村 大きくは、文章構造上の問題、あるいは表現上の問題、さらには考え方の問題があります。

―― たとえば「結論が最後に来る」や「受け身の表現が多い」、「丁寧な意味のない表現が多い」や「弁解の余地を残している」など、「確かに」と思う点が多々ありました。

森村 こうした問題点には、解決策があるのです。まずは、問題点を問題と認識することが、とても重要だと思います。

―― プレゼンテーションのところでは、アイコンタクトの重要性を指摘されていました。

森村 良いプレゼンテーションにはコツがあります。アイコンタクトもその1つです。アイコンタクトをはじめ、ジェスチャー、服装、メリハリといった点のコツを知っていると、今後は、ワンランク上のプレゼンテーションを目指せるのではないでしょうか。

―― スライドの作成についても、例示しながら詳細に解説されています。

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