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In situ心筋梗塞再生治療の可能性――誘導心筋細胞(iCMs)を用いた新たなアプローチ

2012/05/07
古川 哲史=東京医科歯科大学

 心筋細胞はほとんど増殖能を持たないため、心筋梗塞や重症心不全など心筋細胞が大量に脱落する病態では心臓移植しか有効な治療法が存在しない。心臓移植はドナー数に限りがあり、近年、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性肝細胞(iPS細胞)を用いた再生医療への期待が高まっている。ところが、研究が進むにつれて、ES細胞・iPS細胞では左室駆出率(EF)の改善が数%にとどまるなど、乗り越えなくてはならない問題点もクローズアップされてきた。Nature誌5月号に、iPS細胞の次世代を担う可能性のある心筋再生医療の動物実験データが報告された。

【論文1】
In vivo reprogramming of murine cardiac fibroblasts into induced cardiomyocytes
Li Qian et al.
Nature 2012;4:122ra22

線維芽細胞から分化転換した誘導心筋細胞

 iPS細胞は皆さんご存じかと思うが、京都大学の山中伸也教授が2006年マウス、2007年ヒト維芽細胞に山中因子と呼ばれる4因子(Oct3/4、Sox3、Klf4, c-Myc)を導入することで樹立した人工的な多能性幹細胞である。線維芽細胞は中胚葉由来の細胞であるが、これを多能性幹細胞に逆戻りさせ適切な分化刺激を加えることにより、外胚葉(神経細胞など)、内胚葉(肝細胞など)、中胚葉(心筋細胞など)へ再度分化することができるというものである(図1)。

 最近、線維芽細胞からiPS細胞への「脱分化-再分化」のステップをバイパスして、直接種々の細胞へ「分化転換(transdifferentiation)」する試みが行われている。心筋細胞については、慶應義塾大学の家田真樹先生が米国留学中に世界で初めて分化転換に成功し、誘導心筋細胞(induced cardiomyocytes:iCMs)と名付けた。線維芽細胞に心筋特異的な3つの転写因子(Gata4、Mef2c、TBX5)を導入することでiCMsの樹立が可能となり、これら3因子の組み合わせをそれぞれのイニシャルをとりGMTと略す。これは、線維芽細胞と心筋細胞がいずれも中胚葉由来であったためうまくいったわけではなく、外胚葉性の神経細胞、内胚葉性の肝細胞への分化転換も可能である。

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