
さわやまクリニックの沢山俊民氏
「糖尿病の血糖コントロール状態を評価するためには、変動が激しい血糖値だけでは不十分でHbA1cを見ることが欠かせない。であるならば高血圧でも、血圧値だけでなく長期的な管理指標が必要ではないか。そう考えて日常臨床で簡便に測定できる指標がないかを検討した結果、心電図検査で得られるSV1+RV5(Sokolow-Lyon電位)とQRS幅が使えるのではないかと気付いた」。
こう話すのは、川崎医大循環器内科教授を務めた沢山俊民氏だ(現:さわやまクリニック[岡山県倉敷市]院長)。最近の心電計はコンピュータ化され、心電図上の各種計測値が自動計測され波形と共に出力されている。
「どちらも自動計測されるので利用しない手はない。私は外来でフォローしている高血圧患者に対して、定期的な心電図検査で得られるこの2つの指標の変動をグラフ化して見せながら、治療の状況を説明している」と沢山氏。
SV1+RV5(V1誘導のS波の深さとV5誘導のR波の高さの和)はSokolowとLyonの提唱による、心電図上での左室肥大(LVH)を評価する代表的な指標だ(SV1+RV5が計測されていない場合はRV5でも可)。
本指標を用いた最近の臨床研究として、例えば高血圧患者のLVHに対するイルベサルタンとアテノロールの効果の違いを検討したCardioVascular Irbesartan Projectが報告されている。18カ月間の投与でイルベサルタン群のSokolow-Lyon電位はベースラインの2.01mVから0.17mV低下したのに対し、アテノロール群では2.06mVから0.04mV上昇、その差は有意だった[1]。
LVHを認める高血圧患者を対象にロサルタンとアテノロールの心血管イベント抑制効果を比較したLIFE試験でも、ロサルタンの方がSokolow-Lyon電位で見たLVHの改善効果が大きかったと結論した[2]。これ以外にも、2型糖尿病患者を対象にエナラプリルとニソルジピンの心血管イベント抑制効果を比較したABCD trialでも同様な検討が行われている[3]。
一方のQRS幅も、心室内伝導障害や心不全の程度を評価する代表的な指標だ。これらが、糖尿病ならHbA1cに相当する、高血圧の長期的な管理指標として有用という。