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日本栓子検出と治療学会2010
消化器内視鏡診療時、抗血栓薬中止をどう判断?
具体的・厳密な指針を作り5年間イベントゼロ、天理よろづ相談所病院

2010/12/15
高橋 浩=メディカルライター

天理よろづ相談所病院の岡野明浩氏

 消化器内視鏡検査や同治療が必要となった患者が抗血栓薬服用中だったというケースは、決して珍しくない。その際の抗血栓薬の休薬については米国や日本の関係学会から指針が示されているが、血栓塞栓症発症のリスクで分類した原疾患の記載が不十分と指摘する声もある。

 天理よろづ相談所病院消化器内科の岡野明浩氏らは、国内外の学会の指針をさらに具体的かつ厳密な内容とした抗血栓薬の中止・再開指針を作成。その指針を使用してから現在までの約5年間、抗血栓薬の中止に伴う血栓塞栓症は1例も発生しておらず、処置後出血の頻度も抗血栓療法を実施していない患者と差がなかったと、第13回日本栓子検出と治療学会(11月19~20日、開催地:福岡市)のシンポジウム「周術期の抗血栓薬管理」で報告した。

 高齢人口の増加に伴い、脳梗塞、心筋梗塞などの血栓性疾患が増えている。抗凝固薬ワルファリン服用患者は100万人、抗血小板薬アスピリン服用患者は300万人という。この中で合併疾患に対する手術や消化器内視鏡診療が必要になる患者も、相当数にのぼると推察される。

 岡野氏によると、抗血栓薬の服用の有無にかかわらず消化器内視鏡検査・治療実施例全体における出血の頻度は、生検では0.05%ときわめて低いが、それ以外では胃内視鏡的粘膜切除術(EMR)5%、胃内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)4%、大腸ポリペクトミー2%、内視鏡的乳頭切開術(EST)2%などと、決してまれではない。また、消化器内視鏡検査実施例における抗血栓薬服用例は年々増加する傾向が見られ、ここ数年は15%前後に及んでいるという。

 岡野氏らは2005年まで、米国消化器内視鏡学会の指針(02年)、日本消化器内視鏡学会の指針(05年)に従って、内視鏡検査・治療時の抗血栓薬服用中止を患者に指示してきた。米国の指針は血栓塞栓症の予防を、日本の指針は出血予防をより重視する内容だが、米国の指針に準じた対応で脳梗塞を起こした症例を経験した。

 米国の指針では、血栓塞栓症の高リスク原疾患として(1)弁膜症のある心房細動、(2)僧帽弁の機械弁置換術後、(3)血栓塞栓症の既往のある機械弁置換術後――を、また低リスク原疾患として(1)深部静脈血栓症、(2)合併症のない心房細動、(3)生体弁による弁置換術後、(4)大動脈弁の機械弁置換術後――を挙げている。

 岡野氏らが経験した症例は、高血圧、糖尿病、心房細動(弁膜疾患なし)、閉塞性動脈硬化症(ステント留置)、脳梗塞の既往が認められ、米国の指針では低リスク原疾患の(2)に該当すると考えられた。指針に基づき、ワルファリンを3日前、抗血小板薬ジピリダモールを1日前から中止し、早期胃癌診断を目的とした胃内視鏡生検を行ったところ、ワルファリン再開(翌日から)4日目に小脳梗塞を発症した。

 本症例は脳梗塞の既往があり、背景として動脈硬化を有することを重視して高リスクと評価すべきだったと考え、この症例を契機に06年1月、独自の指針を作成した。
 

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