
九大病院の二宮利治氏
中年期(50~64歳)の高血圧は老年期以降の脳血管性認知症(VD)の発症リスクを大きく上昇させるばかりか、そのリスクは老年期に血圧が正常範囲内に下がっても高止まりしたままであることが、久山町研究の新しい検討から明らかになった。
福岡市で開催された第33回日本高血圧学会総会(10月15~17日)のシンポジウム「わが国の高血圧の代表的疫学コホートとその成果」で、九大病院腎・高血圧・脳血管内科の二宮利治氏が発表した。
高血圧が心血管病や動脈硬化のリスクを高めることは、エビデンスとして確立している。だが老年期血圧と認知症との関連については、有意なリスクであるとした報告がある一方、逆にリスクを低下させるという報告もあり、一定の見解がない。病型別でも、アルツハイマー病(AD)では多くの報告が老年期高血圧をリスクと見なしておらず、VDでは研究自体少ないが米国の1研究以外は関係なしとしている。
中年期高血圧と認知症との関連についても、中国やフィンランドからの報告ではADの有意なリスクであると結論されたが、日本や日系米人を対象にした検討ではVDでは有意だったがADとは関連がなかったという結論で、老年期血圧と同様に結論は出ていない。
そこで二宮氏らは、中年期血圧および老年期血圧が認知症発症に与える影響について、検討を行った。対象者は、1988年に登録された久山町研究の第3集団中、登録時に認知症を発症していない65~79歳の高齢住民、668人。追跡期間は2005年11月までの17年間で、同期間中に232人が認知症を発症、うちVDは76人、ADは123人だった。
中年期血圧については、今回の検討対象者の約8割に相当する534人が73年に設定した第2集団でも登録されていたため、その登録時点(50~64歳)における血圧値を用いた。調整因子は性、年齢、学歴、降圧薬内服、糖尿病、血清総コレステロール、体重指数(BMI)、喫煙、飲酒とし、認知症発症の相対リスクを求めた。