日経メディカルのロゴ画像

日本心不全学会2010
ナトリウム利尿ペプチドはこうして発見された
国立循環器病研究センターの寒川賢治所長が特別講演

2010/10/26
軸丸 靖子=医療ライター

国立循環器病研究センター研究所の寒川賢治氏

 組織採取から構造決定までほぼ2カ月で全部が終わってしまったので、心房性ナトリウム利尿ペプチドANP)を発見したときは、実はそれほど達成感はなかったのだという。

 今や心不全の診療に欠かせない存在となった「ナトリウム利尿ペプチドファミリー」を発見した国立循環器病研究センター研究所所長の寒川賢治氏が、第14回日本心不全学会学術集会(10月7~9日、開催地:東京都新宿区)の特別企画「ナトリウム利尿ペプチド・ファミリー(ANP、BNP、CNP)の発見とその後の発展」で、発見までの経緯と新しいペプチドを探索する魅力について語った。

 理学部出身の寒川氏が新規ペプチドの探索に取り組み始めたのは、大学院を終えて宮崎医大(現宮崎大)に赴任した1977年ごろからだ。寒川氏の恩師が、16万5000頭分のブタ視床下部から黄体ホルモン放出ホルモン(LH-RH)を発見し、それがリュープロレリンという前立腺癌治療薬になっていくのを間近に見ていて、刺激を受けたという。

 「ペプチドの発見が新しい薬につながるという夢を持って、研究に取り組んだ。とはいえ、発見できればインパクトは大きいが、必ず発見できるという保証はない。しかも発見できるまで成果はゼロ。発見まではひたすら忍耐という、非常にリスクの大きい分野だった」と寒川氏は振り返った。

 幸いにも、寒川氏らはペプチドの研究を始めて間もなく、新しいモルヒネ様ペプチドのαネオエンドルフィンを見いだす。そのときは構造決定までに3年を要したが、この経験が後に生かされ、より速く、より効率的にペプチドを探索できる独自の方法が編み出された。

 例えば抽出過程では、熱処理を加えることによって組織内プロテアーゼによる分解を防ぐ方法を考案した。精製・構造解析の過程では、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を初めてペプチド精製に応用し、微量ペプチドの分離法とピコ(10のマイナス12乗)モルのレベルでの構造解析法を確立した。

 さらに、in vitroでの摘出平滑筋の収縮・弛緩反応や細胞内セカンドメッセンジャーの測定など、簡便な活性検出法も開発した。このような「素人でもできる」(寒川氏)探索法の確立が、その後の大きな成功につながったというわけだ。
 

この記事を読んでいる人におすすめ