虚血性心疾患の2次予防はスタチンや抗血小板薬、レニン・アンジオテンシン系抑制薬で行われることが多いが、ストロングスタチンを投与した場合でも心血管イベントのリスク減少率は3割ほどで、7割はリスクが残存することになる。
岡山大大学院生体制御学講座(循環器内科学)の伊藤浩氏は、この残存リスクに対する介入戦略として、エイコサペンタエン酸(EPA)の摂取を提案。血中のEPAとアラキドン酸(AA)の比率(EPA/AA比)を0.5以上に維持すべきとの指標を、第19回日本心血管インターベンション治療学会(8月22~24日、開催地:仙台市)フォーカスセッション「虚血性疾患2次予防のためのOptimal medical treatment:その指標と実際は?」で示した。
魚油に多く含まれるEPAはn-3系不飽和脂肪酸、肉類に多く含まれるAAはn-6系不飽和脂肪酸だ。両方とも、プロスタグランジン類の生合成の原料として重要な役割を持つが、体内で合成できないため、経口摂取する必要がある。しかし、わが国では近年の食生活の欧米化によって、n-3系の摂取量が減りn-6系の摂取量が増えた。これに伴って血中EPA/AA比は減少傾向にある。
魚食が急減した1960年代、実は日本人の脳卒中や心筋梗塞は急増している。海外の疫学調査でも、アザラシや魚を多く摂取するイヌイット族では、心臓死が本国のデンマーク人の6分の1と少ないことが確認されており、魚食の減少と冠動脈イベントの増加には何らかの関連が示唆されている。
では、以前に比べAA richになった生体を、サプリメントや食品でEPAを積極的に補うことでEPA richに変えていくとどうなるか。
EPAもAAも細胞膜に多く含まれる物質であり、血管壁の細胞ではEPAからはプロスタグランジンI3(PGI3)が、AAからはPGI2が合成される。PGI2、PGI3どちらも、血小板凝集を抑制する作用が強い。
一方、血小板内ではEPAからはトロンボキサンA3(TXA3)が、AAからはTXA2が合成される。TXA3に血小板凝集作用はほとんどないが、TXA2には強い凝集活性がある。そのため、生体がEPA richになれば、血小板凝集能は抑制されると考えられる。
「日本の外科医が海外で(血中EPA/AA比が低い)欧米人の手術を行うと、止血が簡単で名医になれる理由の1つがこれ。逆に魚食が多くEPAの血中濃度が高いイヌイットは、けがをすると血が止まりにくいのが問題」と伊藤氏。
TOPICS
日本心血管インターベンション治療学会(CVIT2010)
虚血性心疾患の2次予防にEPA摂取を
血中EPA/AA比0.5以上が目安、0.3未満ではハイリスク
2010/09/06
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