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日本血管外科学会2010
血管内治療は胸腹部大動脈瘤でも標準治療になるか
現状では長期成績、耐久性、再治療、アクセシビリティーに課題

2010/06/07
軸丸 靖子=医療ライター

米クリーブランドクリニックのRoy K. Greenberg氏

 腹部大動脈瘤(AAA)へのステントグラフト治療(血管内治療、EVAR)の安全性と有効性は、少なくとも周術期においては広く認められており、より治療の複雑な胸部下行大動脈瘤(DTA)や胸腹部大動脈瘤(TAAA)への適用に期待が高まっている。第38回日本血管外科学会学術総会(5月20~22日、開催地:さいたま市)の国際シンポジウム「Open vs Endovascular Surgery for Aortic Diseases」では、国内外6人のシンポジストが最近の治療成績や技術開発の動向を踏まえ、現状での見解を示した。

 AAAに対するEVARと開腹手術を比較した試験には、英国で行われたEVAR 1やオランダとベルギーで行われた DREAMがあり、術中死亡率および術後30日の周術期死亡率はEVARが勝ることが報告されている。さらにEVAR群ではQOLの改善も見られ、再治療リスクを差し引いてもEVARの利益が勝るとされたが、どちらの試験でも数年後には総死亡率で両群間に差がなくなっており、長期成績の改善が課題になっている。

 米クリーブランドクリニックのRoy K. Greenberg氏は、AAAへの治療戦略を解剖学的リスクと生理学的(身体的)リスクによって4通りに分類した。両リスクとも低ければEVARと開腹手術のどちらも可能だが、解剖学的リスクが高く生理学的リスクが低ければ開腹手術が、解剖学的リスクが低く生理学的リスクが高ければEVARが向く。両リスクとも高い患者では可能ならEVARが適当――というものだ。

 実際、治療がより複雑な部位では、開腹手術も難渋する。DTAの治療で開腹手術がEVARに勝るというデータはないし、TAAAへの開胸・開腹手術についての多施設研究データもない。米国の調査では、こうした複雑病変での開胸・開腹手術後死亡率は19%、1年死亡率は31%と高い。

 この状況下でも、複雑病変へのEVAR実施数は増加している。クリーブランドクリニックでは、2009年に行われた全大動脈瘤治療の17%を、DTAおよびTAAAへのEVARが占めた。TAAAでEVARが行われた患者では、開胸・開腹手術の患者より10歳近く平均年齢が高く、心血管疾患や呼吸器疾患、腎疾患、癌の既往など、状態が悪い患者が多かった。

 Greenberg氏は、「高齢や重篤な患者の複雑病変では、EVARは開腹手術より有利な選択肢といえる。ただし、若くて重篤でない患者に対するEVARの利益は、まだ不明だ」と指摘した。

 

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