
九大大学院の陳玲氏
肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する低侵襲治療法として、ナノ粒子に封入したアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)による吸入治療の研究が進んでいる。ラットを用いた基礎的検討の結果を、九大大学院循環器内科学の陳玲氏らが第74回日本循環器学会総会・学術集会(3月5~7日、開催地:京都市)で報告した。
PAHは肺血管床の広汎な狭小化により、肺動脈圧が上昇する疾患。その予後は従来きわめて不良だったが、血管拡張作用を有するプロスタサイクリン(PGI2)誘導体の静注製剤が登場してから、明らかに向上した。しかし、それでも5年生存率は約50%と報告されている。
しかも、PGI2誘導体の静注治療は煩雑だ。中心静脈カテーテル留置が必要で、それによる感染のリスクもある。さらに、持続注入用ポンプを携帯しなければならず、QOLを大きく低下させる原因となる。
最近では、PGI2誘導体の徐放製剤やエンドセリン拮抗薬なども使用できるようになった。しかし、5年生存率はまだ60%程度とされ、より大きな予後向上につながる画期的な治療法の登場が望まれている。
九大循環器内科では、生体吸収性高分子ポリマー製のナノ粒子を用いた吸入型ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発を進めている。その臨床応用領域の1つとして注目されているのが、PAHだ。
PAHの治療因子を封入したナノ粒子を患者に吸入してもらい、肺組織細胞に薬剤を送達するという治療で、PAHの主な病変部位である細肺動脈への効率的な送達と長時間の作用持続が可能になる。副作用が少ない点もメリットという。