
米シカゴ・ノースウエスタン大学のJan Wysocki氏
近年、レニン・アンジオテンシン系(RAS)には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)とそれにより産生されるアンジオテンシンII(Ang II)から成る昇圧系のほかに、ACE2とAng-(1-7)による降圧系も存在することが明らかになり、RASの全体像に新たな光が当たっている。
ACE2はAng IIを分解して血管拡張作用を持つAng-(1-7)に変換する酵素だ。最近、遺伝子組換えにより製造されたヒトACE2の投与による降圧作用が確認された。
今回、米シカゴ・ノースウエスタン大学のJan Wysocki氏は、ACE2の急性降圧の作用機序を検討、その降圧作用はAng-(1-7)の生成ではなくAng IIの分解に依存していることを明らかにした。
生体内で産生されるACE2はACEに類似した、805個のアミノ酸からなるカルボキシペプチダーゼだが、Wysocki氏が用いた遺伝子組換えACE2(rACE2)はACE2の異化ドメインを保持しつつ小型化した、アミノ酸740個からなる可溶型酵素とした。
in vitroの試験でrACE2はAng IIを分解してその量を減少させ、同時にAng-(1-7)を増加させることが分かっているが、rACE2による急性降圧の主な機序はAng IIの減少にあるのか、Ang-(1-7)の増加にあるのかは不明だった。
研究はマウスを使った動物実験で、マウスを2群に分け、rACE2またはリン酸緩衝生食水(PBS)を投与、2時間後にケタミンによる麻酔処置を施行、さらにその10分後から25分間、血圧を持続測定した。血圧測定開始5分後にAng II(0.2mg/kg)またはPBSを静注し、血圧の変化を観察した。
PBSを前投与した群の収縮期血圧は血圧測定中にPBSを投与してもほとんど変化しなかったが、Ang IIを投与すると血圧は約110mmHgから180mmHgへと急激に上昇した。その後ゆるやかに下降したが、観察終了時でも130mmHg前後と高値を維持していた。
一方、rACE2前投与群ではPBS前投与群に比べAng IIによる血圧上昇度が約半分に抑えられただけでなく、その後の下降も速やかで、10分後にはAng II投与前のレベルに復帰した。
Ang II投与後、血漿Ang II濃度はPBS前投与群で著明に上昇したが、rACE2前投与群では上昇が有意に抑制された。血漿Ang-(1-7)濃度はPBS前投与群にAng IIを投与してもほとんど不変だったが、rACE2前投与群ではAng II投与後、有意に上昇した。