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インスリングラルギンと癌の関連についてEASDが声明
現時点のデータでは結論できず、学会はより大規模な検討に着手

2009/07/08
高志 昌宏

 欧州糖尿病学会(EASD)は6月26日、同学会誌Diabetologiaのウエブサイトで持効型インスリンアナログ製剤インスリングラルギン(商品名ランタス)と癌の関連を論じた複数の論文を公開するとともに、本件に対する声明を発表した。(Lantus insulin: a possible link with cancer which requires further investigation)。

 7月8日現在、EASDのトップページ(http://www.easd.org/)に「Press release: Insulin glargine and cancer risk?」というタイトルで上述のページにリンクが張られている。またDiabetologiaのトップページ(http://www.diabetologia-journal.org/)からも、同様なタイトルの記事(内容は多少異なる)にアクセスすることができる(こちら)。

 グラルギン使用者における癌リスクの上昇を見いだしたとして今回の論議の発端となった報告は、ドイツの保険償還に関するデータベースから、対象となるインスリン使用者12万7031人を抽出して追跡した後向きコホート研究だった[1]。グラルギンの投与量は通常、ヒト型インスリンに比べ少ないこともあり、投与量による調整を行う前は、グラルギン単独使用者における癌のリスクはヒト型インスリン単独使用者に比べて若干低かった(調整前ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[95%CI]:0.79-0.93)。

 だが投与量による調整を行うと、グラルギン単独使用者ではヒト型インスリン単独使用者に比べ、投与量に比例した癌のリスク上昇が観察された(P<0.0001)。平均1.63年の追跡期間で、1日10単位であれば調整後HRは1.09(95%CI:1.00-1.19)だったが、30単位では1.19(同:1.10-1.30)、50単位では1.31(同:1.20-1.42)になっていた。

 一方、同時に分析した超速効型インスリンアナログ製剤であるインスリンリスプロやインスリンアスパルトでは、ヒト型インスリンに比べた癌のリスク上昇は見られなかった。なお本検討では、ノボ ノルディスクの同様な持効型インスリンアナログ製剤である「インスリンデテミル(商品名レベミル)」など使用期間が短い製剤は、対象外とされた。

 事の重大性に鑑み、EASD会長のUlf Smith氏とDiabetologia編集長のEdwin Gale氏は、本論文を公表する前に欧州の他の研究グループに同様な検討を依頼。その結果、スウェーデン、スコットランド、英国で、処方や疾患の症例登録などを用いた検討が行われた。

 11万4841人を対象にしたスウェーデンの検討[2]では、性年齢などの調整後、グラルギン単独使用者では他のインスリン使用者に比べ、女性における乳癌の相対リスクが1.99(95%CI:1.31-3.03)と有意上昇していた。だが消化器癌(HR:0.93、95%CI:0.61-1.40)、前立腺癌(HR:1.27、95%CI:0.89-1.82)、全癌(HR:1.07、95%CI:0.91-1.27)では有意差はなかった。

 さらにグラルギンと他のインスリンを併用している患者では、すべての検討で有意な癌のリスク上昇は観察されなかった。論文では、検討した変数が限られた上、全癌での増加が見られないなどから、乳癌の増加は集団のばらつきによる可能性があるものの、これだけでは結論できないとした。

 一方、スコットランドにおける3万6254人のコホートを対象にした検討[3]では、グラルギン使用者(他のインスリンの併用例を含む)は非使用者に比べ、全癌(HR:1.02、95%CI:0.77-1.36)、乳癌(HR:1.49、95%CI:0.79-2.83)ともにリスクの有意上昇は見られなかった。

 ただし、グラルギン単独使用者とグラルギン非使用者を比較すると、全癌(HR:1.55、95%CI:1.01-2.37、P=0.045)、乳癌(HR:3.39、95%CI:1.47-7.85、P=0.004)ともに有意な上昇が観察された。追跡対象を変えて複数設定したコホート(最大4万9197人)の検討も加え総合的な判断として著者は、グラルギン単独使用者で観察された全癌と乳癌の増加は、グラルギンの作用ではなく集団のバイアスによる可能性が高いとした。

 

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