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AHA2008 Overview 特別編
アスピリンは本当に糖尿病者のCVD一次予防に無効なのか
有意差は出なかったがLBCTセッションで高く評価されたJPAD

 11月9日、16時過ぎ。AHA2008の会場となったErnest N. Morial会議場。センセーショナルな大規模臨床試験「JUPITER」(関連記事)の発表と質疑が終了しても、席を立つ聴衆はほとんどいなかった。彼らが身じろぎせず待っていた次の発表は、「JPAD」(Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis with Asprin for Diabetes)。さっそうと小川久雄教授が登壇したが、相変わらずAV機器の調子が良くない。だが会場がざわついたのは、エンジニアとモデレーターが壇上を行き来するわずかな間だけだった。

 熊本弁チックだが明瞭で歯切れ良い小川教授の英語は、一席前のJUPITERの発表者だったPaul Ridker氏の早口の米語に比べ、日本人の私にはずっと分かりやすかった。ふと、2007年にメルボルンで開催されたInternational Brain Research Organization(IBRO)の会議での出来事を思い出した。2003年にノーベル化学賞を受賞したPeter Agre教授のAquaporinに関する講演の直後に、それまで半分しか埋まっていなかった会場を見る間に立ち見の出る満員御礼に変えた、赤池紀生・九大名誉教授もまた、熊本弁チックな英語で講演していた。

 赤池氏は、単一微小シナプスの機能解析技術(裏技を含む)について解説。予定時間をオーバーしても全く止まらない会場からの質問の嵐に、一つひとつ丁寧に答えていたのが印象に残っている。JPADの発表を聞いて、「科学は中身であって英語じゃない」との確信はさらに強まった。

 本論からはそれるが、小川教授のディスクロージャーのスライドに驚いた。多数の企業名が並んでおり、後で数えると43社あった。日本国内だったら、ここまで正直に羅列するのはめずらしい。米国の臨床系教授のディスクロージャーはこの1.5倍くらい並ぶこともあるので、かえってごまかしのない申告だなとの印象を持った。

 JPADの内容に関しては、11月9日にJAMA-EXPRESSに発表されたフルペーパー[1]の翻訳概要(関連記事)と論文構造の詳細な解析(関連記事)が、既に日経メディカル オンライン上で公開されている。そこで今回も概略のみ紹介しよう。

 2型糖尿病患者2539例(平均年齢65歳、55%が男性)を低用量アスピリン群(81mg/日または100mg/日、1262例)またはアスピリン非投与群(1277例)に割り付け、主要エンドポイントをアテローム性動脈硬化イベント(突然死、冠動脈死、脳血管死、非致死的急性心筋梗塞、不安定狭心症、新規発症労作性狭心症、非致死的脳梗塞/脳出血、一過性脳虚血発作、非致死的大動脈疾患、末梢動脈疾患を当わせた複合イベント)として、ITT(intention-to-treat)解析を行った。

 主要エンドポイントに設定されたアテローム性動脈硬化イベントは、中央値4.4年間の追跡期間中計154件発生した。内訳はアスピリン群68件、非投与群86件で、Cox比例ハザードモデル上のハザード比[HR]は0.80(95%信頼区間[95%CI]0.58-1.10、ログランク検定のp=0.16)と、有意差は認められなかった。また二次エンドポイントのうちで有意差が見られたのは、心臓および脳血管疾患による死亡(HR:0.10、95%CI:0.01-0.79、p=0.0037)のみだった。

 ただしサブグループ解析の結果、65歳以上の患者に限っては、イベント発生はアスピリン群45件に対して非投与群59件であり、HRが0.68(95%CI:0.46-0.99、p=0.047)と、アスピリン群にアテローム性動脈硬化イベントリスクの有意な低減が認められた。

 

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