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tPAで変わる脳卒中医療、カギは専門ナース
島根大教授の小林祥泰氏に聞く

島根大学医学部附属病院長の小林祥泰氏

 わが国で組み換えヒト組織プラスミノーゲン活性化因子tPA)が脳梗塞治療に使えるようになって2年。迅速な治療開始によって大きな障害を残さずに脳卒中を治療できる可能性が高まった。日本でも脳卒中に特化した治療病床である脳卒中ユニットの整備が始まっているが、病院医療の崩壊が叫ばれる中、激務中の激務である脳外科医、神経内科医の疲弊を防ぐ効率的な脳卒中医療を実現するにはどのような体制が必要なのか、島根大学医学部教授で附属病院長の小林祥泰氏に、わが国の脳卒中医療の問題点とあるべき姿を聞いた。



 tPAの登場は脳卒中治療を大きく変えました。脳梗塞患者に対し、3時間以内にtPAを投与できれば、3分の1は快復します。日本でも治療が始まって2年になりました。

 欧米では既に10年以上の歴史があります。tPA治療が始まってから、欧米では脳卒中医療が変わってきました。それが「脳卒中ユニット」による治療です。脳卒中ユニットというと、日本では循環器疾患センターのCCUやICUのような、大がかりな「箱モノ」を思い浮かべます。しかし、それは違う。形だけ作っても意味がありません。

 ICUのような高機能の病床では重症の患者さんしか入れることができませんし、全国への普及は無理です。実際には、軽症の脳卒中でもtPAを投与するとよくなります。その意味でもハードウエアばかり重視するのは間違っています。

専門性の高い看護師を軸に効率的な脳卒中医療を実現
 大切なのは脳卒中の専門家による治療体制、すなわち「脳卒中チーム」であるというのが欧米の発想です。神経内科医、脳外科医からリハビリを担当するPTなどや退院支援のMSWまでが連携をとりますが、なかでも要になるのが「脳卒中ナース」と呼ばれる脳卒中専門看護師です。

 医療機関に脳卒中超急性期の患者さんが到着すると、日本の場合、医師ばかりが呼び出されます。地域の病院だと神経内科医、脳外科医が1~2人ずつというケースが珍しくありません。一方、神経系の救急患者は脳卒中だけでなく、意識がなくなったという患者さんも次々に搬送されてきます。

 当直医が脳梗塞のようだと判断してCTを撮影し、専門医をコールしても、当初の判断に専門性がないため、なかなかtPAの適用になりません。例えば10回呼び出されて1回しか適用にならない状況です。これをどうやって効率化し、専門医の負担を減らすか。そのためのカギになるのが脳卒中専門の看護師です。

 欧米では、救急でレジデントが診察し、脳卒中の疑いがあると、まず、脳卒中看護師に連絡します。看護師が診察してtPAの適用、あるいは専門的な治療が必要だと判断すれば、神経内科医や脳外科医をコールします。こうした体制をとることで、専門医がtPA治療に携わる率が大幅に高くなります。毎回行かなくてすむので、専門医が疲弊しなくてすむのも利点です。

 日本でも今年になって、脳卒中リハビリテーション認定看護師の資格を設けることが決まりました。これは超急性期からリハビリまで含めたもので、来年から実際の認定が始まります。日本もようやく追いついてきたといえます。

 脳卒中認定看護師に対しては、脳卒中学会としても積極的に教育・支援していきます。私が会長を務める2009年の日本脳卒中学会・学術集会では、3日目に看護師のセッションを設ける予定です。

 最近になって、日本でも役割分担の重要性がようやく理解されるようになってきました。コメディカル、特に看護師の役割を強化し、医師の負担を減らして、本当に集中すべき患者さんに十分な治療ができるようにすべきです。脳卒中治療の成績を上げるには、早く来てもらって早く治療する必要がある。そのために最も重要なのがこうしたチーム医療体制です。

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