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米国高血圧学会(ASH)2008
ディベート「前期高血圧は治療すべきか?」 2
Con:条件反射的な処方の前にリスク評価を行うべき

ASH2008ポスター会場にて(記事内容とは関係ありません)

 前期高血圧prehypertension)者は積極的に治療すべきだとするTulane大学(米国ルイジアナ州)のThomas D. Giles氏の主張(こちら)に対し、Englewood病院(米国ニュージャージー州)のLawrence R. Krakoff氏は、「血圧は、昔も今も非常に大きな問題で、短時間では議論は尽くせない」と前置きした上で、「今の高血圧のステージ分類をGiles氏のように解釈すると、世の中の3分の1は高血圧患者、3分の1は前期高血圧患者、残りの3分の1が前々期高血圧患者(pre-prehypertension)になり、すべての国民が致死的な危険にさらされていることになる」と皮肉った。

 そして「高血圧診療の論点は、往々にして180度転換されてしまう」として、Lancet誌(2002;360:1903-13)に掲載された論文を取り上げた。これは、血圧が高いほど脳卒中による死亡が増え、その傾向はどの年齢層でも同じことを示したというデータだ。しかしKrakoff氏は「これは年齢が高くなるほど脳卒中が増えることを示したデータと解釈すべき。血圧値は、一つの要素にすぎない」と説明した。

 「高血圧治療ガイドラインは、リスクの評価と臨床試験の結果を、このように転換(読み替え)して反映させたものになっている。当然、医師は測定した血圧値からリスクを評価するので、患者は不安になる。その不安解消のために、医師は条件反射的処方(prescription-writing-reflex)を行う。結果的に、医師の治療方針の決定には製薬企業のマーケティングも含んだ様々な要素が影響する」と現状を分析した。

 そして、昨年発表されたCopenhagen MONICAのコホート研究の結果を紹介した(Am J Hypertens. 2007;20:483-91)。これは、至適血圧(optimal)、正常血圧(normal)、正常高血圧(high-normal)それぞれの群について、10~20年後の血圧の変化と心血管イベントの発生率とを追跡したもので、追跡当初の集団の平均年齢は43歳、BMIは23~25、糖尿病はほとんどなく、50~58%が喫煙者だった。

 10年以上経過して高血圧になった人の割合は、追跡開始時の血圧が高かった群ほど多く、また年齢が高いほど多かった。一方、血圧の変化と心血管イベントの発生との関係をみると、至適・正常血圧のままの群のリスクを1とすると、高血圧になった群のリスクは2~3倍高く、追跡開始時の血圧が高いほどリスクも高かった。至適血圧から高血圧になった群でもリスクは2倍になっていた。

 Krakoff氏は「このデータだけを見ると、至適血圧ですら治療しなくてはいけないと考えるかもしれない。しかし、それは違う」とし、血圧が上昇する最も大きな要因は年齢であること、前期高血圧の中で、脂質異常、肥満、糖尿病というリスクを合併している割合も、やはり年齢が高くなるほど多いというデータ(Arch Intern Med. 2004;164:2113-8)を示し、年齢が重要な因子であることを強調した。

 また、正常高血圧(high-normal)の人の心血管疾患による死亡リスクを1とし、年齢、人種、性の補正をすると、前期高血圧(pre-hypertention)のリスクは同じく1なのに対し、高血圧患者では1.91になることを示し(Am J Cardiol. 2004;94:1496-500)、「年齢などを考慮せず、前期高血圧を治療すべきかどうかを論ずるべきではない」とした。

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