ご無沙汰しています。「心房細動による脳卒中予防」に関する知識や情報はずいぶん広がりました。私自身は社会的な「心房細動の無症候化」を実感しているので、近い将来、社会に対して心房細動に関する啓発活動をどのように行うかが重要なテーマになると思っていますが、取りあえず久々の今回は、それよりスケールの小さい、かなり世俗的な感じのテーマにさせていただきます。
それというのも最近、「実際のところ、先生はどうしているのですか?」と非常によく聞かれるようになったからです。ある種の降圧薬のように(特定しませんが、お察しください)どれも似たり寄ったりの薬物ならよいのですが、新規抗凝固薬にはそれぞれの薬物に特徴があり(強みと弱みがあり)、とても「どれを選んでも同じですよ」とは言いにくいのが実情です。そこで、脳卒中の1次予防を担っている私の現時点での考え方をお示ししようと思ったわけです。
私の考え方の重要なポイントは3つあります。
(1)適切な抗凝固療法を行うと医師も患者も脳卒中より大出血に出会いやすくなる
(2)クレアチニンクリアランスは腎機能というより大出血のリスクマーカーである
(3)3つの新規抗凝固薬は、クレアチニンクリアランス別に大出血の頻度が異なる可能性が高い
(1)適切な抗凝固療法を行うと医師も患者も脳卒中より大出血に出会いやすくなる
なんと矛盾する現実・・・でも実際のところそうならざるを得ないのです。日本で行われ、最近その結果が発表されたJ-RHYTHM Registryの研究結果を紹介します。心房細動患者が登録され、2年間の脳卒中・全身性血栓塞栓症、入院を要する大出血の頻度が検討されました。患者登録時のワルファリン投与の有無、INR値別にアウトカムを見てみましょう(図1)。