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第43回
抗凝固療法の逃れ得ぬ「宿命」

2012/09/26

 ご無沙汰しています。この「心房細動塾」を始めた頃に比べると、心房細動に関わる情報量は増大し、それと同時にその情報が伝わるルートも格段に増加しました。これは、心房細動患者さんにとって素晴らしいことだと思います。

 特に、情報ルートの拡大は情報のよりフェアな解釈につながります。そして、心房細動塾を開塾した私自身も、この日経メディカル オンラインから新しい情報を勉強するようになりました。その意味で最近は、「もうあまり伝えることがなくなってきたかなぁ」と感じるほどです。

 さて、ここ数年、新規抗凝固薬を用いた大規模臨床試験の成績がセンセーショナルに発表され、さらに実際の臨床現場でこれらの新しい薬を用いることができるようになりました。皆さんも、大規模臨床試験に表された数字の大小を比べながら、どれを使おうか迷っているという状況ではないでしょうか。

 抗凝固療法が1つしかなかった時代には、ワルファリンのコントロールに苦慮しつつも、「迷う」難題はなかったのですから、皮肉ですね。

 私も迷い続けながら試行錯誤している毎日ですが、最近気づき始めました。それは「抗凝固薬につきまとう宿命」ともいえるものです。

 皆さんが日ごろよく使われている薬物と比較してみてください。降圧薬、血糖降下薬、スタチン・・・・・・。各領域で多種多様な薬剤が販売されていますが、それらの選択にいちいち苦渋しているでしょうか。

 これらの領域においても複数の薬物が乱立し、そのエビデンスも覚え切れないほどなのに、患者に合わせて比較的自然に(少ない心の抵抗感で)薬物を選択できているのではないですか。新規抗凝固薬が置かれている状況と全く異なるものに見えます。なぜでしょうか。

 降圧薬、血糖降下薬、スタチンでは、いったん処方した後、血圧、血糖、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)を見ながら、軌道修正をすることができます。カーナビや景色を見ながら目的地まで運転できるようなものです。初めから乗る自動車の車種にそれほどこだわらなくても、車の操作性や性能が気にくわなければ途中で車種を変えることもできます。
 

著者プロフィール

山下武志(心臓血管研究所所長・付属病院院長)やました たけし氏。1986年東大卒。同大第二内科に入局。阪大第二薬理学、東大循環器内科助手などを経て、2000年から心臓血管研究所第三研究部長、2011年から現職。不整脈診療の第一人者であるとともに、分かりやすい著書や講演でも名をはせる。

連載の紹介

山下武志の心房細動塾
不整脈の診療に造詣の深い山下武志氏が、自身の経験と最近充実してきたエビデンスを踏まえ、心房細動診療の最新の考え方と実践例を紹介する。同氏が提唱する「3ステップ」や「洞調律への復帰をあせるべからず」「患者満足度の重視」という視点は、心房細動を診るすべての臨床医が傾聴すべき真実を含んでいる。

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