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第36回
ダビガトランの薬価で気付かされたこと

2011/05/09

 去る3月11日、ダビガトラン薬価をテーマにした第35回をアップした翌日に東日本大震災が起きました。まず、この大震災で被害を受けられた先生方に心からお見舞い申し上げます。

 また、長期間にわたり被災地に医薬品や医療材料が十分に供給されず、その事の重大さを改めて私自身認識しました。心房細動関連では、抗凝固療法に用いるワルファリンやブコローム(商品名パラミヂン)の供給が途絶え、採血モニタリングが不能となりました。そうした事態にどう備えたらよいか、これから考えていかなければならないことです。

 今回は、この大震災で起きた問題に比べると甚だスケールの小さな話になってしまった感がありますが、前回先生方にも問い掛けたダビガトラン(プラザキサ)の薬価のことについてまとめておきたいと思います。コメントを13人の先生から頂き、改めてこの場を借りて感謝を申し上げます。ありがとうございました。

 先生方のコメントの内容をじっくり読ませていただきました。私の感覚としてですが、「非常に高い」と感じている先生が約50%、「高い」と感じている先生が約40%、「適切である」と感じている先生が10%弱でしょうか。この結果は、ダビガトランの薬価に対する標準的な価値判断を示しているといってよいのではないでしょうか。私の心の中にあるいくつもの思いを象徴しているようにも感じました。

 視点も様々でした。列挙すると、専門医・プライマリケアの視点、個人負担・国家予算の視点、科学技術振興の視点、患者生活の視点、診療所・病院・老健施設の視点、服用期間からの視点などです。個人が物事を見る視点、そしてそのような視点から判断する価値観はやはり多様です。そしてこれこそ健全な社会であることの象徴なのでしょう。

 同時に、薬価の決定方法という点でまだ十分に満足できるシステムが確立していないことも明らかになったような気がします。類似薬が存在する場合の薬価決定は比較的リーズナブルな方法で決められているようですが、類似薬がない新規医薬品は、製造販売に要するコストなどを積み上げて計算される原価計算方式になっています。

 今回、自分でネット検索をしながらこの原価計算方式を理解しようとしましたが、残念なことに十分理解し納得するまでには至りませんでした。まだ原価計算方式には改善すべき余地が多々あるというような指摘がなされていることも知りました。ちなみに、このダビガトランについても薬価算定根拠を示す文書が公表されていますが、それを見て理解し納得できる人は少ないだろうと思います。
  
 このようにダビガトランの薬価はいろいろなことを考えさせてくれました。現時点で導き出せる結論としては、「現状は様々な意味でまだ満足すべき状況にない」という当たり前のことなのかもしれません。

 前回はダビガトランの市販直前に発信したものでしたが、既にダビガトランが日本で使えるようになって早1カ月、私は外来診療を行いながら重大なことを忘れていることに気付きました。
 

著者プロフィール

山下武志(心臓血管研究所所長・付属病院院長)やました たけし氏。1986年東大卒。同大第二内科に入局。阪大第二薬理学、東大循環器内科助手などを経て、2000年から心臓血管研究所第三研究部長、2011年から現職。不整脈診療の第一人者であるとともに、分かりやすい著書や講演でも名をはせる。

連載の紹介

山下武志の心房細動塾
不整脈の診療に造詣の深い山下武志氏が、自身の経験と最近充実してきたエビデンスを踏まえ、心房細動診療の最新の考え方と実践例を紹介する。同氏が提唱する「3ステップ」や「洞調律への復帰をあせるべからず」「患者満足度の重視」という視点は、心房細動を診るすべての臨床医が傾聴すべき真実を含んでいる。

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