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第29回
CHADS2スコア1点の患者の抗凝固療法をどう考える

2010/08/20

 前回、心房細動患者のリスク評価に関して、新しい指標が続々と作成されていることをお伝えしました。今後、これらの指標が日常臨床で活用されていくかどうかは、私たちの医療行為の決定にどの程度役立つかにかかっていると思います。

 その点、CHADS2スコアは現在簡便な臨床指針となってくれています。しかし一方で、このCHADS2スコアでも、その後の医療行為を決定できない患者集団がいます。

 それは、CHADS2スコア1点の患者です。日常臨床では極めて多く、筆者が所属する病院でも心房細動初診患者の約30%を占めています。この患者集団に対して抗凝固療法を行うべきかどうかについて、残念ながら誰も答えが出せません。

 現在、CHADS2スコア2点以上を高リスク患者ととらえ、抗凝固療法を行うことが一般的な価値観ですが(この点でCHADS2スコアは簡便なリスク層別化になります)、2点未満のスコアの患者集団については明確な回答を得ることはできていないのです。欧米のガイドラインでは「アスピリンもしくはワルファリンの投与を」、本邦のガイドラインでは「ワルファリン投与を考慮してもよい」という、いずれも歯にものがはさまったような推奨の仕方になっています。

 この理由として、CHADS2スコア1点の患者に対するワルファリン投与のリスクとベネフィットが拮抗していることが挙げられます。残念なことに脳梗塞予防を目的としたワルファリン投与により、頭蓋内出血が欧米人では0.3~0.4%/年(J Am Coll Cardiol. 2007;50:309-15.)、日本人では約0.6%/年(Stroke 2008;39:1740-5.)生じることが足を引っ張っているのです。ワルファリン投与により回避される脳梗塞と、投与によって生じた頭蓋内出血の発生率が拮抗してしまう──。これがCHADS2スコア1点の患者集団に対するワルファリン投与の現実です。

 一般的にワルファリン投与中に生じた脳内出血は致命的であることが多いため、もしかするとこの病態は心原性脳梗塞よりたちが悪い状態とも考えられます。そこで、出血性脳卒中が脳梗塞患者の1.5倍悪影響をもたらすという仮定の下に、ワルファリン投与の損得を検討したという論文があります(図1)。

著者プロフィール

山下武志(心臓血管研究所所長・付属病院院長)やました たけし氏。1986年東大卒。同大第二内科に入局。阪大第二薬理学、東大循環器内科助手などを経て、2000年から心臓血管研究所第三研究部長、2011年から現職。不整脈診療の第一人者であるとともに、分かりやすい著書や講演でも名をはせる。

連載の紹介

山下武志の心房細動塾
不整脈の診療に造詣の深い山下武志氏が、自身の経験と最近充実してきたエビデンスを踏まえ、心房細動診療の最新の考え方と実践例を紹介する。同氏が提唱する「3ステップ」や「洞調律への復帰をあせるべからず」「患者満足度の重視」という視点は、心房細動を診るすべての臨床医が傾聴すべき真実を含んでいる。

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