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第24回
抗不整脈薬の歴史と伝統から抜け出す

2010/01/07

 新年明けましておめでとうございます。今回は抗不整脈薬の使用について、私の考えることを改めて記しておきたいと思います。というのも、本邦では心房細動に対して多種多様な薬物が使用可能であるが故に、かえって日常臨床に不要な混乱を招いている可能性が高いと思うからです。

 心房細動を前にして「どの薬を使おうか?」と迷われたことのある先生は多いと思います。この一見複雑そうに見えるテーマ「心房細動に対する抗不整脈薬」は、長期間にわたり心房細動診療のメインテーマとなってきました。

 今回、この問題を解く鍵を、2つ挙げてみます。1つは前回の「心不全」と同様、その「歴史」です。そしてもう1つは、本邦特有の抗不整脈薬「ベプリジル」です(象徴的な存在として取り上げます)。この2つの鍵は、一見複雑そうに見える問題が案外シンプルであることを教えてくれるはずです。

 抗不整脈薬は、ジギタリスやキニジンにまで戻ることのできる古い開発の歴史を持っています。歴史があればあるほど、「昨日の事実は今日に当てはまり、今日の事実は明日にも当てはまる」という慣性が、個人にも集団にも働きやすくなります。

 私が不整脈分野に足を踏み入れたとき、「不整脈中にどのような電気興奮が生じているか、そしてそれを停止・予防するにはどのような電気生理学的介入をすべきか?」が、長くトップランナーの位置を占めてきた研究課題でした。

 私自身もそのような問題意識から出発し、基礎・臨床の両面から研究を行ってきました。そして、その結果、私は極めてシンプルな疑問にぶつかったのです。

 それは、主流と思われてきたこの課題設定自体が、どれほど実際の診療を向上させたのだろうという根本的疑問でした。長い歴史と伝統(もちろんこれ自身は重要ですが)は、慣性の力を持ちながら、この課題設定に目に見えにくい仮説的な前提があることを忘れさせてしまいました。

 その前提とは、(1)不整脈を停止・予防させることと患者のアウトカムには一定の関係がある、(2)不整脈は電気的現象であるため、電気生理学的介入がその解決策である──です。

 しかし、この前提は全く証明されてないばかりか、むしろもはや成立しないことが証明されていると言って過言ではありません。多くの基礎研究成果があるにもかかわらず、現在に至るまで心房細動患者の真の予後を改善する抗不整脈薬は何1つ知られていません。そして、これほど古い歴史があるにもかかわらず、抗不整脈薬同士の比較を行った公平な臨床試験の成績すらも数少ないのです。種類が多いのであれば、当然比較すべきだと思うのですが…。

著者プロフィール

山下武志(心臓血管研究所所長・付属病院院長)やました たけし氏。1986年東大卒。同大第二内科に入局。阪大第二薬理学、東大循環器内科助手などを経て、2000年から心臓血管研究所第三研究部長、2011年から現職。不整脈診療の第一人者であるとともに、分かりやすい著書や講演でも名をはせる。

連載の紹介

山下武志の心房細動塾
不整脈の診療に造詣の深い山下武志氏が、自身の経験と最近充実してきたエビデンスを踏まえ、心房細動診療の最新の考え方と実践例を紹介する。同氏が提唱する「3ステップ」や「洞調律への復帰をあせるべからず」「患者満足度の重視」という視点は、心房細動を診るすべての臨床医が傾聴すべき真実を含んでいる。

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