日経メディカルのロゴ画像

第19回
J-RHYTHM試験が示した治療の道標

2009/06/06

 前回まで、心房細動の患者さんに出会ったら何を考えてどんな治療を行うかについて、近年明らかになったリサーチエビデンスを基にしながら私なりの考えを述べてきました。一方、欧米・日本における心房細動ガイドラインについても、エビデンスの乏しい時代での専門家によるリコメンデーションから、大きな変革を遂げています。

 AFFIRM試験を代表とする欧米の数々の大規模臨床試験により、「心房細動患者に対して、抗不整脈薬投与で洞調律を維持すれば生命予後が向上する」という単純な作業仮説が否定されたことは、これまで述べてきた通りです。それら試験の結果を受けて、2006年に欧米のガイドラインもリニューアルされ、公表されました1)

 その2001年度版では(1)除細動と洞調律維持 、(2)心拍数コントロール、(3)脳梗塞予防、という順序で記載されていましたが、2006年度版では(1)心拍数コントロール、(2)脳梗塞予防、(3)除細動と洞調律維持、という順序に変更されました。このリニューアルには、心房細動を単なる電気生理学的な異常として捉えるのではなく、患者のアウトカムに障害をもたらす疾病として捉え直し、心房細動患者に対する医療者としての基本態度を再度確立しようという意図が感じられます。

 しかし、この新しい欧米のガイドラインをグローバルスタンダードとして、そのまま日本の医療に適用してよいのでしょうか。当然、心房細動という疾患は国によって違います。同年齢での日本人の心房細動罹患率は低いことが想定されています。生命予後も米国に在住する患者よりカナダに在住する患者の方が良好であることが知られていますが、日本人ではさらに良好だろうと推測されます。心房細動の背景疾患も国により大きく異なりますし、用いられる薬物も保険適用の問題が絡んで欧米と同一のものが使用できるとは限りません。

 つまり、考え方の主軸はグローバルに同一であっても、やはり国によってガイドラインは修飾せざるを得ません。日本でも2001年に日本循環器学会からガイドラインが発表されましたが、当時、わが国には心房細動に関する大規模臨床試験の経験はなく、欧米のガイドラインにならったもので診療されてきたのが実情でした。

 2007年になり日本心電学会が主催したJ-RHYTHM試験の結果が発表され、日本でのデータがようやく集まり、それに基づき日循のガイドラインも最近、全面改訂されました。この試験の結果の一部は過去の記事で何度か引用しましたが、今年1月に論文化されましたので2)、改めてその概要と結果に対する私なりの解釈を述べたいと思います。

 J-RHYTHM試験の目的は、欧米の大規模臨床試験からのレッスンを生かした上で、わが国での心房細胞に対する適切な治療は何か、多様な患者を前にした臨床医がどのように意思決定を行うべきか、1つの道標を示すことでした。一口に心房細動といっても多種多様であることは、実際に診療を行っている読者の方々は既に十分認識していることと思います。そこで、「洞調律維持と心拍数コントロールという治療方針の間に差がないなら、何をもって治療方針を決定すべきであろうか? それは各患者のQOLまでをも含めて包括的に考えるべきではないか?」という問題意識に基づき、図1のような試験プロトコールが組まれました。

著者プロフィール

山下武志(心臓血管研究所所長・付属病院院長)やました たけし氏。1986年東大卒。同大第二内科に入局。阪大第二薬理学、東大循環器内科助手などを経て、2000年から心臓血管研究所第三研究部長、2011年から現職。不整脈診療の第一人者であるとともに、分かりやすい著書や講演でも名をはせる。

連載の紹介

山下武志の心房細動塾
不整脈の診療に造詣の深い山下武志氏が、自身の経験と最近充実してきたエビデンスを踏まえ、心房細動診療の最新の考え方と実践例を紹介する。同氏が提唱する「3ステップ」や「洞調律への復帰をあせるべからず」「患者満足度の重視」という視点は、心房細動を診るすべての臨床医が傾聴すべき真実を含んでいる。

この記事を読んでいる人におすすめ