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第14回
抗不整脈薬投与の基本は “Do No Harm”

2008/12/08

 心房細動診療のラストステップは、QOL低下の原因となっている症状を取り除いて患者さんの満足度を向上させることです。その主役は抗不整脈薬になるわけですが、薬剤により心房細動を完全に抑えようとする努力は、「木を見て森を見ず」といえるかもしれません。多くの抗不整脈薬には、頻度は少ないながらも致命的な副作用があり、良かれと思って行った治療がかえって患者のQOLを低下させ、生命予後に悪影響を及ぼすことが間々あるからです。

 AFFIRM試験の層別解析によれば、心房細動患者の生命予後を改善する因子として、洞調律であること、ワルファリンを服用していることが挙げられる一方で、生命予後を悪化させる因子として抗不整脈薬の使用が挙げられました1)。この結果は、抗不整脈薬の安易な、かつ漫然とした投与に対する警鐘であり、不適切または不必要な抗不整脈薬の投与は極力避けなければなりません。

 抗不整脈薬投与の基本は、“Do No Harm”。「副作用を起こさないように用いること」です。そのためには、基礎疾患の有無や腎・肝機能など患者さんの背景因子に即した薬剤を選択し、使用開始後に起こり得る副作用を熟知しておくことが重要です。

 しかしながら、現在わが国で使用可能な抗不整脈薬は10種類以上あり、不整脈を専門としない医師まで、すべての抗不整脈薬の副作用に精通すべきだとは考えていません。不整脈を専門とする医師は、多種類の抗不整脈薬の中から効果の高いものをうまく選択しているように見えるかもしれませんが、どの抗不整脈薬もせいぜい50%の効果であり、予期せぬ副作用が出現し中止せざるを得ないこともよくあります。

 私は、不整脈を専門としない医師であれば、そんなに多くの抗不整脈薬の副作用を熟知しておく必要はないと考えています。抗不整脈薬は大きく、ナトリウムチャネル遮断薬(いわゆるI群薬)とカリウムチャネル遮断薬(いわゆるIII群薬)の2つに分けられますが、後者のIII群薬は、肺線維症、心室頻拍といった致命的な副作用が起こり得るので手を出さない方が無難です。

著者プロフィール

山下武志(心臓血管研究所所長・付属病院院長)やました たけし氏。1986年東大卒。同大第二内科に入局。阪大第二薬理学、東大循環器内科助手などを経て、2000年から心臓血管研究所第三研究部長、2011年から現職。不整脈診療の第一人者であるとともに、分かりやすい著書や講演でも名をはせる。

連載の紹介

山下武志の心房細動塾
不整脈の診療に造詣の深い山下武志氏が、自身の経験と最近充実してきたエビデンスを踏まえ、心房細動診療の最新の考え方と実践例を紹介する。同氏が提唱する「3ステップ」や「洞調律への復帰をあせるべからず」「患者満足度の重視」という視点は、心房細動を診るすべての臨床医が傾聴すべき真実を含んでいる。

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