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第13回
患者の嗜好で治療方針を決めても生命予後は悪化しない

2008/11/12

 心房細動の患者さんを前にして、リズムコントロールを選ぶか、それとも心拍数コントロールを選ぶかは、患者さんさえ満足すれば(QOLが向上すれば)どちらでもよいと前回述べました。しかも、患者さんの価値観は多様であり、把握しにくいQOLが相手ですから、初回で選んだ治療法ですべてうまくいくとは限りません。

 うまくいかなければもう一方の手を使ったり、あるいは両方の手を使ってみたりする。そうやって試行錯誤しながらも、最終的には患者さんの症状を取り除いて患者満足度(QOL)を向上させる――。これが心房細動診療のラストステップです。

 心房細動患者の生命予後に関する大規模臨床試験の結果は、これまで述べてきたように数多くあります。一方、QOLに関する研究はまだ十分になされていません。しかし、実際にAFFIRM試験とほぼ同様の内容であるPIAF試験では、抗不整脈薬投与による洞調律維持群で6分間歩行距離の上昇などQOLの改善が認められています1)。患者さんが心房細動による症状で困っているのに、生命予後の改善が認められていない、QOLに関するデータが十分でないという理由で、そのまま心房細動に対する治療を行わないという医師はいないでしょう。

 とはいえ、抗不整脈薬の投与はリスクを伴います。具体的には、抗不整脈薬の副作用によるQOL低下と、長期的にどこまで洞調律を維持できるか不明だという点です。例えば、アミオダロンには肺線維症ベプリジルソタロールには心室頻拍torsade de pointes)という重大な副作用が起こる恐れがあります。また、ほとんどの抗不整脈薬は時間と共に効果が減弱し、最終的には無効になってしまうことが知られています。

 リアルワールドでは、心房細動患者に対してリズムコントロールと心拍数コントロールがどのように使い分けられ、どのようなアウトカムに結び付いているのでしょうか。わが心臓血管研究所のデータ(Shinken Database 2004)を見てみましょう。

 心房細動全患者(286例)のうち、リズムもしくは心拍数コントロールの治療方針が決定され、外来で経過観察を行い得た患者は262例で、このうち結果的にリズムコントロールが選択されたのは1年間で101例(40.0%)でした。中でも初診でリズムコントロールが開始された症例は10%程度にすぎず、残りの症例は初診後約半年までの間に徐々に導入されていました。いったんリズムコントロールを始めても、何らかの理由で中止を余儀なくされた例も10%弱見られました。

著者プロフィール

山下武志(心臓血管研究所所長・付属病院院長)やました たけし氏。1986年東大卒。同大第二内科に入局。阪大第二薬理学、東大循環器内科助手などを経て、2000年から心臓血管研究所第三研究部長、2011年から現職。不整脈診療の第一人者であるとともに、分かりやすい著書や講演でも名をはせる。

連載の紹介

山下武志の心房細動塾
不整脈の診療に造詣の深い山下武志氏が、自身の経験と最近充実してきたエビデンスを踏まえ、心房細動診療の最新の考え方と実践例を紹介する。同氏が提唱する「3ステップ」や「洞調律への復帰をあせるべからず」「患者満足度の重視」という視点は、心房細動を診るすべての臨床医が傾聴すべき真実を含んでいる。

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