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第11回
心原性脳梗塞を防ぐ手段としてのARB

2008/10/08

 今まで行われた心房細動に関する数々の大規模臨床試験は、抗不整脈薬などによる洞調律維持やアスピリンなどによる抗血小板療法では悲惨な心原性脳梗塞を防げないことを明らかにしました。その予防手段は今のところ、ワルファリンによる抗凝固療法しかないという現実を私たちは受け入れるしかありません。

 しかしながら、この古くから存在するワルファリンには、これまで述べてきたように臨床的に使用しづらい点が多々あるのも事実です。この難しいワルファリンを心房細動というコモンディジーズに対して用いる医療を推し進めていくことには限界があります。また、高齢者などハイリスク集団では、ワルファリン投与下でも脳梗塞発生率は依然として高いとされており、心原性脳梗塞に対する新たな予防法の開発が望まれます。実際にこのような状況から、ワルファリンに変わる新しい薬物が開発中ですが、まだまだ時間が掛かりそうです。

 心房細動で心房に血栓が生じやすい理由として、心房内の血流低下、血液凝固性の亢進、心房内皮障害というVirchowの三徴がいわれてきました。すなわち、障害された心房内皮に凝固しやすい血液が低流速で接したときに最も血栓が生じやすいという理屈です。心房内の血流低下を防ぐ手段として試みられたのが洞調律維持だったわけですが、その方法は現時点では不確実であるため、脳梗塞予防に結び付かないことは既に述べた通りです。血液凝固性の亢進を低下させる手段がワルファリン投与であり、これが今の脳梗塞予防の拠りどころとなっています。

 残りの心房内皮障害に対してはどうでしょうか。実は、Virchowの三徴の一翼を占める重要な要素でありながら、心房内皮障害に関する知見はこれまで極めて限られていました。ところが最近の研究により、心房細動自身が心房内皮におけるeNOSやトロンボモジュリンなどの内因性抗血栓分子の発現を低下させ、PAI-1などの凝固活性因子を誘導することが分かりました。さらに、これらの変化には心房における酸化ストレスの増加が関与しているとの報告があり、心房の中で動脈硬化と類似した内皮障害が起きていることが明らかになってきました。

 そこで筆者らは、このような情報伝達の上流にはレニン・アンジオテンシン系RAS)の活性化が関与しているのではないかと考え、ラット心房細動モデルに、酸化ストレス軽減を目的としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬ARB)のオルメサルタンを投与する実験を行ったところ、心房内皮障害が緩和されることが分かりました1)

著者プロフィール

山下武志(心臓血管研究所所長・付属病院院長)やました たけし氏。1986年東大卒。同大第二内科に入局。阪大第二薬理学、東大循環器内科助手などを経て、2000年から心臓血管研究所第三研究部長、2011年から現職。不整脈診療の第一人者であるとともに、分かりやすい著書や講演でも名をはせる。

連載の紹介

山下武志の心房細動塾
不整脈の診療に造詣の深い山下武志氏が、自身の経験と最近充実してきたエビデンスを踏まえ、心房細動診療の最新の考え方と実践例を紹介する。同氏が提唱する「3ステップ」や「洞調律への復帰をあせるべからず」「患者満足度の重視」という視点は、心房細動を診るすべての臨床医が傾聴すべき真実を含んでいる。

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