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心アミロイドへのタファミジスには年齢制限がある、マルかバツか

 とある教育病院の指導医がカンファレンスで、研修医から88歳の心アミロイドーシス患者に対するタファミジスメグルミン(商品名ビンダケル)の適応を尋ねられた。「あれは若年発症が多い家族性だけじゃなかったかな」といぶかりつつもあわてて調べ直した指導医は、資料を前に改めて考え込んでしまった。

 「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」[文献1]では言及されていないが、従来は有効な治療法がなかったトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM:transthyretin amyloidosis cardiomyopathy)に対し、2019年3月からタファミジスメグルミンによる治療が可能となった(関連記事)。

 アミロイドーシスは、線維構造を持つ蛋白質であるアミロイドが全身臓器に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患群で、「心筋症診療ガイドライン」では、AL(免疫グロブリンL鎖)アミロイドーシス、AA(血清アミロイドA)アミロイドーシス、遺伝性ATTRアミロイドーシス、野生型ATTRアミロイドーシス、透析関連アミロイドーシスに分類している。

 これまでタファミジスメグルミンは、TTR遺伝子変異を有する遺伝性ATTRアミロイドーシス(トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーとも呼ばれる)のみを適応としていた(投与量20mg/日)。それが2019年3月の適応拡大によって、野生型ATTRアミロイドーシスであっても心アミロイドーシスと診断されるケースには投与できるようになった(ATTR-CMに対する投与量は80mg/日)。

 先のガイドラインでは心アミロイドーシスを「心臓へのアミロイド沈着に起因する心機能障害」と定義しており、「肥大型心筋症と鑑別が必要な主な二次性心筋症」として、この心アミロイドーシスの他に、ファブリー病、糖原病、ミトコンドリア心筋症などに言及している。

 野生型ATTRアミロイドーシスは、以前は老人性全身性アミロイドーシスの名で呼ばれていた。トランスサイレチンの遺伝子変異はなく、組織の老化が原因とされている。アミロイドーシスは全身疾患なので、全身衰弱、貧血、消化器障害、ネフローゼ、手足のしびれなどの全身症状が出現する可能性があり、不整脈、心不全などの心機能障害が主症状のものに心アミロイドーシスの病名が付く。アミロイドーシスは指定難病であり、医療費助成の対象となっている。

 2018年に発表されたATTR-CM患者を対象とするタファミジスメグルミンの第3相試験ATTR-ACTでは、主要評価項目である総死亡+心血管疾患関連入院だけでなく、代表的な副次評価項目とされた機能的能力やQOLの低下についても、プラセボ群に比べ同薬投与群でそのリスクは有意に抑制された[文献2]。

 老化が原因なので、当然高齢患者が多い。New England Journal of Medicineに公表された患者背景では、タファミジスメグルミン投与群の年齢中央値は75歳、範囲は46~88歳だった[文献2]。88歳の患者が30カ月の観察期間中ご存命だったかは不明だが、仮にそうだったとすれば、本邦の承認用量と薬価を当てはめると2年半の命を月約700万円、総額約2億円の薬剤費であがなったことになる(20mg1カプセル5万8230.4円、ATTR-CMに対する投与量80mg/日で計算)。

 本邦におけるATTR-CMの患者数は数万人と推定されるとのことだが、かかる薬価を鑑み厚生労働省と日本循環器学会は、患者要件、施設要件、医師要件の3要件すべてを満たす場合にのみ、タファミジスメグルミンを投与できるとした(下の表1)。

 今のところ、本薬剤投与に患者の年齢制限はない。心臓移植以外に有効な治療法のない重症心筋症に対する移植の適応については、65歳未満とガイドラインに記されている。さすがは外資系製薬メーカーがバックに付いているだけはある、と思ってしまうのは不謹慎だろうか。社会保障制度の崩壊に現在直面しつつある若手の先生方が、カンファレンスでしっかり議論されるのは意義あることと考える。

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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