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JAMA誌から
2つの神話を崩した、日本の第一線臨床医の実力
AHAの「2014年の循環器研究ベスト10」にも選出されたJPPP試験

2014/12/29

 既に日経メディカル Onlineでも紹介されているので、JPPP(Japanese Primary Prevention Project)試験について読者諸氏はよくご存じのことと思う(日本人の心血管一次予防、アスピリンに利益なし、2014.12.23)。本邦の「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン」を書き換える重要な試験結果であるが、筆者は今回の結果はそれだけにとどまらず、「2つの神話」ともいうべき我々の思い込みを正してくれた、価値ある試験だと考えている。

 その1つが、「アスピリン神話」という思い込みである。アスピリンは100年以上も世界の第一線の診療現場で使われ、いまだ現役を務めるレジェンドな薬剤であることは事実だが、十把一絡げの使用法が真っ当なのかという疑問は、これまでにも提起されていた[1]。

 そしてもう1つは、いわゆるバルサルタン事件でクローズアップされた「PROBE(Prospective Randomized Open Blinded-Endpoint)神話」という思い込みである。我々循環器内科医は、もはや日本でまっとうな臨床試験はできないのではないかという、自信喪失の状態にあった(特集◎相次ぐ研究不正、信頼回復のための10人の提言、vol.12345678910、2013.8.23~2013.9.17)。これから立ち直るきっかけを、JPPP試験は与えてくれた。

 繰り返しになるが、JPPP試験の概略を見ておこう。本試験では高血圧、糖尿病、脂質異常症を合併しているが心血管疾患の既往はない60歳以上の高齢者約1万4000例を、アスピリン腸溶錠(100mg/日)を投与する群と投与しない群にオープンラベルでランダムに割り付け、心血管イベントの発生を中央値で5年間追跡した。

 解析は、PROBE法で行われた。この手法にはバイアスが入りやすいとされ、バルサルタン事件などに絡み、その悪名を高めてしまった経緯が知られている(「結局、最後に必要なのは研究者の良心だ」、2013.9.24EBMに潜む八つのワナ~論文を正しく読むコツ~、能登洋の「糖尿病治療のエビデンス」、2014.8.18)。

1つ目の「アスピリン神話」の崩壊

 二次エンドポイントでアスピリン投与群における利益は認められたものの、心血管死亡、脳卒中、心筋梗塞の複合とした一次エンドポイントにおける差は認められなかった。さらに、輸血または入院を要した重篤な頭蓋外出血は、アスピリン投与群で有意に多かった[2]。

 6年前に発表された、2型糖尿病患者に対するアスピリンの一次予防効果を検討したJPAD試験でも、アスピリンの利益は証明されなかった(AHA2008 Overview特別編、アスピリンは本当に糖尿病者のCVD一次予防に無効なのか、2008.12.17)。

 ただし、JPAD試験での累積イベント発生率5.4%対6.7%(ハザード比率[HR]:0.80、P=0.16)に比べて、今回の累積イベント発生率は2.77%対2.96%(HR:0.94、P=0.54)と、さらに低率だったことが目を引く。

 JPPP試験の結果が発表された11月の米国心臓協会(AHA)学術集会で、指定討論者だったロンドン大学衛生熱帯医学大学院教授兼Public Health Foundation of India副所長のDorairaj Prabhakaran氏は「End of the road」と表現し、「年間イベント発生率が1%未満の超低リスク集団では、アスピリンのベネフィットが示される見込みはありそうにない」と発言した[3]。

 筆者はこれを、アスピリン神話の崩壊と解釈した。ただし同氏は、心血管イベントのリスクが10~20%の集団はいまだグレーな領域であり、「利益を受ける可能性のある個人と集団の同定に精力的に取り組むべき」とも発言している[3]。

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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