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既存の薬でアルツハイマー病に挑む
なぜNHKスペシャルはシロスタゾールをとりあげたのか

2014/09/08

 7月20日(日)の夜、NHKスペシャルで“認知症800万人”時代「認知症をくい止めろ ~ここまで来た!世界の最前線~」が放映された[1]。この中で、既存薬によるアルツハイマー病の新規治療法として、日本のシロスタゾールに関する観察研究[2]と、米国の経鼻インスリン療法が紹介された。前者については、土橋内科医院(仙台市青葉区)院長の小田倉弘典氏が独自に患者用パンフレットを作成するなど、医師の間でも話題となった[3]。

 脳梗塞の二次予防として抗血小板薬がアルツハイマー病に有効である理由は、まだよく分かっていない。だが2013年には、抗血小板薬による脳血流の改善と認知機能の悪化阻止を確認したランダム化比較試験(RCT)や、脳血流の改善を示唆する観察研究が報告されている[4、5]。国立循環器病研究センターのプレスリリースによれば、薬理メカニズムの一環として、アミロイドβの排泄を推定しているとの由である[6]。

 アルツハイマー病の病因の1つではないかと推定されるアミロイドβの毒性や蓄積を、シロスタゾールが抑制するという実験報告は、別のグループも発表している[7、8]。新規抗体医薬の開発もアミロイドβを治療標的にしたものだったが、最近の治験では頓挫が続いている(NEJM誌から●Aβの抗体医薬solanezumabで利益示せず、日経メディカル Online、2014/2/6NEJM誌から●Aβの抗体医薬bapineuzumabでも利益示せず、日経メディカル Online、2014/2/7)。

 実験的にではあるが、シロスタゾールのアミロイドβ抑制に関する詳細なシグナル伝達の研究は韓国の研究者が熱心で[9、10]、彼の国では少数例だが既にRCTも実施された。しかし、結果はネガティブだった[11]。

 RCTによる結論が未確定なシロスタゾールの研究を、なぜNHKスペシャルは取り上げたのか? 国立循環器病研究センターが今年中に、多施設共同の医師主導治験を始めるからか[6]。医師主導治験であれば、特定の製薬企業を直接支援するわけではないので、公共放送としては報道リスクが少ないためか。

 わが国における既存薬を用いたアルツハイマー病治療に関する研究としては、テプレノンに関する基礎研究がある[12]。一方海外では、ビタミンE大量投与(JAMA誌から●高用量ビタミンEが軽中等症ADの機能低下を抑制、日経メディカル Online、2014/1/10)や、ココナツオイル(記者の眼●脳の栄養源ケトンでアルツハイマー病が改善、日経メディカル Online、2013/12/26)に関して報告がある。しかし公共放送としては、何らかの支障があったのかもしれない。

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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