最近、大気汚染と循環器疾患との関連に関する報告が急激に増えている。なかでも環境省が外出についての注意喚起指針を見直した微小粒子状物質、PM2.5が注目を集めており、日経メディカル オンラインでも取り上げられた(PM2.5と循環器疾患の“危険な関係”、2013.3.1)。
PM2.5と循環器疾患に関する最新の情報を探すと、European Heart Journalの2013年2月19日号に英国ロンドン大学のグループが、急性冠症候群(ACS)と大気汚染との関連に関する観察研究を報告していた[1]。以下はその抄録である。
抄録:本研究は、(1)大気汚染への長期の曝露と心筋梗塞(MI)後の総死亡と関連、(2)予後の社会経済的不平等に対する大気汚染の寄与の程度――を明らかにすることを目的とした。Myocardial Ischaemia National Audit Project(MINAP)に登録されたACSによる入院患者の記録を、2004~10年の大気汚染データと関連付けた。15万4204例を平均3.7年間追跡し、3万9863例の死亡が確認された。
PM2.5への曝露が多いほど総死亡は高率で、調整後のハザード比は1.20(95%信頼区間:1.04-1.38)だった。一方、より大きな粒子や窒素酸化物と総死亡との関連は認められなかった。予後に関する社会経済的不平等について、大気汚染の関与はわずかだった。
イングランドとウェールズにおけるACS入院患者では、PM2.5への曝露が多いほど総死亡は高率だった。だが困窮地域で高濃度のPM2.5に暴露された人でも、ACSの予後に対する社会経済不平等への寄与は少なかった。本報告は、大気汚染物質としての微小粒子状物質への長期曝露と死亡率のエビデンスに、新たな情報を加えるものである。
著者らは、1m3当たりのPM2.5が10μg増加するごとに、死亡率は20%上昇したとし、高濃度汚染への曝露がなければ死亡は12%低下したと推測した。ただ本研究では、死因は特定されていない。
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著者プロフィール
駒村 和雄(尼崎永仁会クリニック)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。ハーバード大学留学などを経て98年から国立循環器病センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授。2022年、尼崎永仁会クリニック(兵庫県尼崎市)診療部長。

連載の紹介
駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。
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