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J Am Coll Cardiol誌から
スポーツ選手突然死予防のための心電図健診、1件の予防に10億円?

2013/01/16

 新春の箱根駅伝では低体温と脱水症で2校が棄権したと伝えられた。幸い心肺停止例はなかったが、2月に予定されている東京マラソンでは、過去6年間で5件の心肺停止があったという[1]。健康診断を受診しておくことが予防策として推奨されている。

 ただ、一般健診における心電図検査の意義については、以前から議論があった。最近の日経メディカル オンラインでも、「無症候で低リスクの患者には心電図スクリーニングを行うな」(2012.9.13)、「BMJ誌から●一般的な健康診断に死亡率低減効果はない」(2012.12.5)などで、その話題が取り上げられている。

 さらに厚生労働省の2005(平成17)年度班研究「基本的健康診査の健診項目のエビデンスに基づく評価に係わる研究」(班長:福井次矢氏)においても、心電図は「エビデンスがなく、利益と害の比較ができない」と評価された[2]。

 スポーツ競技者の不整脈について、本邦の「心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版)」はホルター心電図検査と電気生理検査には触れているが、12誘導心電図検査に関しては言及していない。

 J Am Coll Cardiol誌2012年12月4日号において、テルアビブ大学(イスラエル)の研究グループは、心電図スクリーニングには莫大な費用がかかると注意喚起した[3]。論文の概要を紹介しよう。

目的:米国においてスポーツ選手の心電図スクリーニングを全国的に実施する場合の費用と、それにより救命される人数を推定する。

背景:イタリアの臨床研究から、スポーツ選手に対する強制的な心電図スクリーニングによる突然死リスクの減少が報告された。この報告に基づき欧州心臓病学会(ESC)はスポーツ選手の心電図スクリーニングを推奨しているが、米国心臓協会(AHA)は推奨していない。既に広く行われている心電図スクリーニングは、突然死リスクが実際どれほど減少するのか、また費用対効果についての精緻な検討がなされていないため、賛否両論がある。

方法:費用対効果の推算法、および選手の臨床背景や主治医の診断成績などは、イタリアの研究に準拠した。スクリーニング対象者はNational Collegiate Athletic Associationおよびthe National Federation of State High School Associationsのデータを用いて推定した。診断費用はメディケアの償還額に基づいた。

結果:米国内で競技スポーツを行う高校生・大学生を対象とした心電図スクリーニングを20年間行うと510億~690億ドルかかり、それにより4813人が救命されると推定された。従って1人を救命するために、1060万~1440万ドルかかることになる。

結論:米国においてイタリアと同様の心電図スクリーニングを行おうとすると、1人救命するのに莫大な費用がかかると推察された。

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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