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JACC誌STATE-OF-THE-ART PAPER、Lancet誌Commentから
細胞治療、今こそ10年越しの夢がかなうのか
それとも「スキピオ」の夢と消えるのか

2012/01/12

 46歳の急性心筋梗塞(AMI)患者に対して、骨髄系幹細胞冠動脈内注入療法が最初に行われたのは2001年3月30日。それから10年がたった[1]。この間、幹細胞によるMI治療の臨床試験は、ポジティブあるいはネガティブ両方の結果を出しながら症例を重ねてきた[2,3]。用いる細胞の種類、投与時期、投与方法、患者選択、エンドポイントの選択、ベースラインの左室駆出率(LVEF)――。これらのいずれもが異なるため、さまざまな結果が導き出されたと説明されている[1]。

 その中でLancet誌2011年11月26日号には、虚血性心筋症に起因する慢性心不全の患者を対象に患者自身から採取し培養した心臓幹細胞を用いるという、前例のない臨床試験であるSCIPIO試験の第1相試験の良好な結果が掲載された[4]。

 本試験の対象は、虚血性心筋症に由来する重症心不全で冠動脈バイパス術(CABG)を受ける患者である。CABG時に右房組織を約1g採取して、c-kit陽性でlineage陰性(=分化した細胞に特徴的な抗原を持たない)の心臓幹細胞を分離培養し、冠動脈に注入するプロトコールに基づいて行われた。

 具体的には、75歳未満でLVEFが40%以下、心筋に瘢痕組織が認められる患者に、CABGから3~4カ月後(平均113日)、梗塞部位に冠動脈カテーテルを用いて注入した。

 SCIPIO試験は現在も進行中で、今回は最初に治療を受けた16例に関する分析結果なのだが、幹細胞移植に関連する有害事象はなく、左室機能やQOLの有意な改善と梗塞部位の縮小を認めたという。

 結果の詳細については、日経メディカルオンラインの記事を参照されたい[5](Lancet誌から●自己心臓幹細胞移植で梗塞後重症心不全患者の左室機能が向上、日経メディカル オンライン、2011.11.29)。

 本成績が米国ルイスビル大学から発表された第84回米国心臓協会・学術集会(AHA2011)では、AMIへの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の2~3週間後に骨髄単核球を冠動脈内注入した、LateTIME試験も報告された。

 だがこちらは、LVEFなどにプラセボとの差が出ず、ネガティブな結果に終わった[6,7](急性心筋梗塞例へのステント留置2~3週間後の自家骨髄単核球冠動脈内投与は安全だが心機能は改善せず、日経メディカル オンライン、2011.11.21)。

 一方、同じAHA2011で報告された、骨髄由来前駆細胞をAMI患者の冠動脈に注入するREPAIR-AMIランダム化試験の5年間追跡結果では、LVEFの改善が維持されていた[8]。

 5年前のREPAIR-AMI試験においても既に、LVEFの有意な改善が得られていたわけだが[9]、ほぼ同時期に行われたASTAMI試験では自家骨髄細胞の冠動脈内注入による有用性は得られておらず[10]、またBOOST試験では自家骨髄細胞の冠動脈内注入による6カ月後の心機能の回復は、18カ月後には消失していた[11]。

 ことほど左様に一定した結果のない細胞治療だが、メタ解析ではいずれも有意なLVEFの改善が示されている。ただし注意すべきは、それがたかだか3~4%であることだ(表1)。

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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