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Lancet誌commentから
Inotropeとは呼ばないで・・・
急性心不全に対するミオシン活性化薬はダーウィンの海を泳ぎ切れるか

2011/11/01

 ノーベル賞受賞者の方々のご高説やマスコミで取り上げられる記事を載せたりと、Science誌は自分とは縁もゆかりもない雲の上の科学雑誌と思っていた。興味本位に、「新しい強心薬?かもしれない」化合物の報告を読んでいて、目を疑った[1]。20年前に書いた自分の論文(Komamura K, et al. J Clin Invest. 1992;89:1825-38.)が引用されていたのだ。

 著者名をもう一度見ると、あった。かつて一緒に実験三昧の日々を送った、Shen(センと発音する)とVatnerの名前が。20年を経ても、以前と同じペーシング心不全モデルに改良を加えながら新知見を生み出していることに、頭が下がった。医学以外の分野でもそう感じるが、米国の研究者は意外にしつこく、粘り強い。

 「心筋ミオシン活性化薬」について書かれた、その論文の内容については、既に循環器プレミアムで古川哲史教授による詳細な解説が掲載されているので、そちらを参照いただきたい[2](New Insight from Basic Research●新たなタイプの心不全薬シーズの登場(日経メディカル オンライン 循環器プレミアム、2011.3.24)。

 簡単に言えば、心筋ミオシン活性化薬は旧来の「強心薬」と異なり、dP/dt(左室圧発生速度)ではなく収縮時間を増加させ、細胞内Ca濃度や心筋酸素消費量を変えずに心拍出量を増やすため、不整脈リスクが少ない「抗心不全薬」になるというのである。Lancet論文の著者の1人、John GF Clelandは、「強心薬以外」の適切な呼称を探しているという[3]。

 心筋ミオシン活性化薬のCK-1827452(omecamtiv mecarbil)は、検討され生理機能が確認された4つの候補化合物(他にCK-0689705、CK-1122534、CK-1213296)の最後の化合物で、リード化合物からここに至るまで1700種の化合物が合成されたという。水溶性が増し、経口投与も可能とのことだ[4,5]。迅速に持ち込まれた臨床試験(第1相のCY-1111研究[6]と第2相のCY-1121研究[7])においては、静注で使用された。

 Lancet誌にback-to-backで発表されたこれらの臨床試験の結果についても、既に古川教授の詳細な解説があるので、参照いただければと思う[8](ミオシンアクチベーターomecamtiv、P1・P2結果出る(日経メディカル オンライン 循環器プレミアム、2011.9.16)。

 ただし気がかりなのは、CY-1111では心筋虚血疑いが1例、CY-1121では心筋梗塞1例と心筋虚血疑い4例の報告があることだ。収縮時間が長引けば、当然、冠灌流が行われる拡張時間は減る。予期しない血中濃度の上昇のために著しく収縮時間が増加した結果、十分な冠灌流が行われずに、心筋虚血に至ったとの説明である。

 CY-1121の治験対象者45例中、1例が明らかな心筋梗塞とすれば、2%である。多くはないだろうか。International Conference on HarmonizationのEfficacy Guidelineでは、1%~0.1%未満の要求があったように記憶するのだが・・[9]。読者の皆さんは、どうお考えだろうか。

 CCS(Canadian Cardiovascular Society)の狭心症重症度分類でIII~IV度が除外基準になっているが、これらは日常生活に支障を来す狭心症である。米国の心不全患者には心筋梗塞後が多いが、左室駆出率(EF)が40%以下で体が十分に動かなければ、3枝病変があってもCCSがII度というのはあり得るだろう。今後、症例数が増えた場合、同様の薬剤有害反応が多発する懸念はある。
 

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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