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Lancet誌Commentから
アスピリンこそ不老不死の薬だった?
Will an aspirin a day help keep fatal cancer away?

2011/02/03

 アスピリンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)が大腸癌の発症・死亡を抑制するかもしれないと以前から報告されてきた[1-4]。その機序はいまだ確立していないが、Wnt/βカテニン系の抑制を介したものではないかと推測されている[5-6]。さらにアスピリン服用によって便潜血の陽性率が上がることも、大腸癌死亡抑制に関与しているのかもしれない[7]。

 英国オックスフォード大学のPeter Rothwell氏らは、既にアスピリンの大腸癌抑制効果を報告していたが[8-9]、大腸癌だけでなく各種固形癌でも同様な癌発症・死亡抑制効果が認められることを、2011年1月1日付のLancet誌に報告した[10]。

 多種の癌にわたって、投与量・性別・喫煙の有無と関係なく癌抑制効果を示した世界初の報告であり、今後のアスピリン関連診療ガイドラインへの影響も少なくないと思われる。日経メディカルオンラインでも既に内容を紹介しているが[11]、まず概略を振り返ってみる。

 アスピリンによる虚血性心疾患の1次予防または2次予防のランダム化比較試験(RCT)の中から、計画された投与期間が4年以上だった試験8件をメタ分析した。対照群にはプラセボまたは他の抗凝固薬、もしくはそれ以外の抗血栓薬が投与された。計2万5570人の患者中674人が、癌で死亡した。アスピリンは癌死亡を有意に減らしていて、オッズ比(OR)は0.79(95%信頼区間[95%CI]:0.68-0.92、P=0.003)だった。アスピリンを低用量の75~100mg/日の試験に限定すると、ORは0.81(95%CI:0.68-0.97、P=0.03)となった。

 生存期間に関するデータが得られた7件の試験(2万3535人の患者、癌死亡は657人)を用いて、Kaplan-Meier法による累積死亡率を推定したところ、アスピリン群の癌死亡のハザード比(HR)は0.82(95%CI:0.70-0.95、P=0.01)になった。アスピリンによるリスク低下は5年以上経過しないと有意とならず、全癌についてのHRは0.66(95%CI:0.50-0.87、P=0.003)となったが、5年未満の場合は0.86(95%CI:0.71-1.04、P=0.11)にとどまった。

 癌の原発部位別の解析でも、消化器癌のHRは、5年以上の追跡では0.46(95%CI:0.27-0.77、P=0.003)と有意になったが、5年未満では差が出なかった。非消化器系の固形癌は、5年以上追跡してもHRは0.76(95%CI:0.54-1.08、P=0.12)で、リスク低下は有意にならなかった。

 英国で行われた3件(1万2659人の患者、癌死亡は1634人)の大規模研究については、試験終了以降の長期追跡が可能だった。癌死亡の20年リスクはアスピリン群で低く、すべての固形癌による死亡のHRは0.80(95%CI:0.72-0.88、P<0.0001)、消化器癌による死亡のHRは0.65(95%CI:0.54-0.78、P<0.0001)になった。

 アスピリンの効果は、計画された治療期間が長いほど大きかった。治療期間が1~4.9年の場合には、固形癌による死亡のHRは1.06(95%CI:0.82-1.39、P=0.62)、5~7.4年では0.79(95%CI:0.70-0.90、P=0.0003)、7.5年以上は0.69(95%CI:0.54-0.88、P=0.003)となった。
 

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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