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Ann Intern Med誌EDITORIALから
まだまだ救急医は楽できない(2)肺塞栓症
Handy Point-of-Care Decision Support

2010/01/04

 米・ハーバード大学Brigham and Women's HospitalのJeffrey M Rothschild氏は11月17日付のAnn Intern Med誌EDITORIAL [1]において、仏・アンジェ大学中央病院救急部のPierre-Marie Roy氏らによる、携帯情報端末(PDA)を用いた肺塞栓症・診断支援システムの報告[2]を論評した。

 肺塞栓症は診断が難しい疾患として知られているが、治療の早期開始、および不必要な検査や抗凝固薬の投与を避けるために迅速な診断が必要である。肺塞栓症の診断そのものについてはガイドラインが整備されており、特に改訂版ジュネーブスコアは、臨床背景・危険因子・臨床症状に基づいて肺塞栓症の確率を予測することが立証されている。

 改訂版ジュネーブスコアは、ベイズ定理に基づき事前確率から事後確率を推定するのだが、複雑なアルゴリズムなので忙しい臨床現場、特に救急部門では使いづらい。コンピューターに内蔵された診断支援システム(CDSS:clinical decision-support systems)は、ガイドラインの活用を促進する。紙のガイドラインよりコンピューターの方がアルゴリズムに必要な計算も速いし、過去の検査結果を取り出すのも容易である。

 Roy氏らはPDAによる肺塞栓症のCDSSを開発、それを使った場合と使わない場合でアウトカムを比較する臨床試験を行った。CDSSを使う場合は、PDAあるいは診断手順を示したポスター、ないしはポケットに入るカードのいずれかの活用が義務づけられた。

 対象はフランス国内の救急診療部20施設で、CDSSを使うかどうかは無作為に割り当てた。結論は、肺塞栓が疑われた患者に対して、論文のガイドラインだけに比べてCDSSの導入により、より適切な検査が促進されたというものだった。

 対照群では、ポケットカードによるジュネーブスコアが推奨されたが、CDSSは使えなかった。導入群ではCDSSによりジュネーブスコアを計算し、次の検査が推奨されるとともに検査後確率が表示される。もし結論が出ないのであれば、追加的な検査も推奨された。

 肺塞栓症の確率が5%以下で否定の診断、85%以上で肯定の診断として、そこに至るまで検査を続けるアルゴリズムだった。試験の1次エンドポイントは精密検査の適切さ、2次エンドポイントはガイドライン推奨検査の遵守、検査の回数、3カ月後の臨床転帰とした。

 CDSSにより紙のガイドラインに比べて検査前確率の計算が増え、適切な検査の選択が増えた。さらにCDSSによりガイドラインの遵守が増え、検査回数は減り、3カ月後の転帰は同程度だった。

 

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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