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Ann Intern Med誌REVIEWから
旅行時間が2時間延びると静脈血栓塞栓症リスクは18%上昇
Meta-analysis: Travel and Risk for Venous Thromboembolism

2009/09/09

 ロングフライト症候群とかエコノミー症候群として知られる旅行に関連した静脈血栓塞栓症(VTE)は、旅行とVTEが当然関係しているのだという仮定を前提にした用語だが、驚くことに従来の疫学研究の半数は、両者が無関係であるとしている。

 今日、世界中で年間25億人もの人が航空機を利用し、かつVTEの初回発作における28週以内死亡率は11%と高いため、この両者の関係を定性・定量的に明らかにすることは臨床的にも医療政策的にも重要だと思われる。米ハーバード大学公衆衛生学部のDivay Chandra氏らはこの問題に関する論文のメタ分析を行い、8月4日付のAnn Intern Med誌に総説として報告した。

 研究データは、MEDLINE、EMBASE、BIOSIS、CINAHL、the Cochrane library、grey literature sourcesから入手した。1560の候補研究から総説や症例報告などを除外し、旅行者を対象とした観察研究・臨床試験であり、非旅行対照群の存在と画像によるVTEの確定診断を要件として、最終的に14研究(症例対照研究11、症例クロスオーバー研究1、後ろ向きコホート研究1、前向きコホート研究1)を分析対象とした。

 いまだ観察研究の質を評価する標準的基準が確立していないので、研究の質に影響する研究不均一性の起源となり得る研究デザイン上の条件も調査した。特に症例対照研究において結果の妥当性を大きく左右する対照群の選択基準に着目した。メタ分析は、「観察研究のメタ分析(MOOSE)ガイドライン」に従って行った。

 14研究のうち7研究では旅行とVTEの有意な関連を報告していたが、残り7研究では有意な関連はないとしていた。

 11の後ろ向き症例対照研究では、最近の旅行歴にかかわらずVTEを経験しなかった症例をすべて対照群に入れていた。研究背景における平均的旅行可能性の推定が正しく与えられない場合に、選択バイアスが生ずる。理想的な対照群は、症例群を含む一般人口の中で旅行というリスク要因とは無関係に選ばれないといけない。

 11のうち5つの症例対照研究では、一般集団あるいは病院受診者で旅行とは関係ない者が対照群とされていた。残り6つの症例対照研究では、VTE疑いだったが検査陰性の者が選ばれていた。このような「関連対照群」は、本来の研究背景に由来する対照群よりも、最近の旅行歴などVTEに関連するリスクに、よりさらされやすい。

 症例交叉研究が1つあったが、対照期間は一個人内に設定されていて、研究期間中は不変であるはずのVTEリスクとの交絡作用を消去するようになっていた。

 旅行の様式は研究ごとに異なり、5つは航空旅行のみ、9つは航空あるいは陸上(海上を含む)旅行、また旅行時間も0時間以上から8時間以上までと幅があった。旅行歴の確認は、6研究ではVTE診断前の自己申告、他の6研究ではVTE診断後の自己申告、残り2研究では旅行記録に基づいた。

 半数の研究では深部静脈血栓症(DVT)のみ、5研究では肺塞栓症(PE)あるいはDVT、2研究ではPEのみが調査された。VTEとの確診は、12研究では放射線診断、1研究では剖検、1研究では入院記録によった。10研究が欧州、 2研究は欧州と北米、2研究はオセアニアで行われた。

 

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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