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J Am Coll Cardiol誌Editorialから
CARP遺伝子は肥大型・拡張型の両方で心筋症の原因に
Phenotypic Heterogeneity of Sarcomeric Gene Mutations: A Matter of Gain and Loss?

2009/08/18

 J Am Coll Cardiol誌7月21日号に、原因不明の難病として特定疾患に指定されている特発性心筋症で新たな原因遺伝子を発見したとする2編の論文が掲載された。同一の遺伝子が、肥大型心筋症と拡張型心筋症という、ある意味で対極にある2つの病態の原因遺伝子となるという興味深いもので、同号において米コロラド大学のLuisa Mestoni氏が2論文を論評した[1]。

 心臓アンキリン反復蛋白質(cardiac ankyrin repeat protein;CARP)は、心筋・血管平滑筋・内皮細胞など心血管細胞特異的に発現する蛋白で、圧負荷などによる細胞伸展の際に誘導されて核内に移行する転写共阻害因子の1つでもある。

 第1の論文は、このCARPをコードする遺伝子ANKRD1が肥大型心筋症の新たな原因遺伝子であるというもので、東京医科歯科大・難治疾患研究所教授の木村彰方氏らの国際共同研究により見いだされた[2]。

 これまで、肥大型心筋症の原因遺伝子は、心筋収縮のカルシウム感受性の亢進もしくは伸展反応の亢進をもたらすことが明らかにされてきたが、原因遺伝子が発見されるのは家族性肥大型心筋症の約半数に過ぎず、これら以外にも原因遺伝子があると考えられていた。

 CARPは胎児期の未熟な心筋細胞や、圧負荷心・心不全などで伸展された心筋細胞内で発現が亢進する転写関連因子で、心筋細胞の成熟分化や不全心筋細胞の機能に重要な役割を果たしている。

 木村氏らは、既知の原因遺伝子に変異が見つからない特発性肥大型心筋症を対象としてANKRD1の変異を探索した結果、3種類の変異を見出した。さらにCARPの結合先である細胞骨格「titin」のN2-A領域についても、2種の変異を発見した。

 これらの変異はすべて、CARPとtitin N2-Aとの結合性を増強するものだった。そこで変異CARPをラットの心筋細胞に遺伝子導入すると、細胞内局在が異常となった。肥大型心筋症はこれまで、サルコメアやZ帯などの細胞構造蛋白異常が原因とされてきたが、細胞質と核を行き来する蛋白(シャトリング蛋白)異常でも同様の病態が生じることを示した初の発見となった。

拡張型心筋症でもCARPが変異
 第2の論文は米ベイラー大学のMoulik氏らの報告で、こちらも木村氏らを含む国際共同研究の成果である[3]。著者らは特発性拡張型心筋症患者からCARPの変異を3種類発見したが、それらはいずれも、木村氏が肥大型心筋症患者から見いだしたものとは異なるものだった。

 特発性拡張型心筋症の20~35%は遺伝性で、病態には免疫や炎症も関与するとされるが、家族性拡張型心筋症においてすら、原因遺伝子は約20%しか同定されていない。著者らが見いだした変異CARPは細胞内局在の異常は示さなかったが、talinなどの細胞質蛋白との結合性が減弱していた。また変異CARPは、伸展した心筋細胞内の遺伝子発現パターンを変化させた。

 以上よりCARP変異は、それぞれ異なった機能異常によって、肥大型心筋症と拡張型心筋症という、ある意味対極に位置する特発性心筋症の異なる2つの病態の原因になることが明らかとなった。

著者プロフィール

駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)こまむらかずお氏。1956年生まれ。東京大学経済学部・大阪大学医学部卒。大阪警察病院、ハーバード大学留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所室長。2008年、兵庫医療大学教授。2009年、武田薬品中央総括産業医。2016年、神戸学院大学教授。2018年、国際医療福祉大学熱海病院 病院教授、兵庫医科大学非常勤講師および横浜市立大学客員教授。

連載の紹介

駒村和雄の「健康寿命で行こう」
2009年にNMO循環器プレミアムのコラムとしてスタートした「論説・総説を読む」が、バージョンアップしました。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏。同氏が現在かかわっている医療系教育研究や高齢者医療の現場から、今、わが国の第一線の医療現場で問題となっている話題を幅広く取り上げ、Evidence Basedで論じます。

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