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No.20
慢性的な交感神経刺激によって引き起こされる催不整脈性の新しいメカニズム

2014/05/13
當瀬規嗣=札幌医科大学 医学部 細胞生理学講座

當瀬規嗣氏

 慢性心不全では、経過中に心臓突然死となるケースがあり、その原因として致死性不整脈の発生確率が高いことが指摘されている。この致死性不整脈の発症機転として、心不全患者の血中ノルアドレナリン濃度が高いことから、慢性的に交感神経活動レベルが高いことが重要視されている。

 様々な慢性心不全モデルでは心室筋細胞の活動電位の継続時間が延長していることが報告されている。また、活動電位継続時間の延長は、多形性心室頻拍(torsades de pointes)などの致死性不整脈を引き起こす原因と考えられている。したがって、心不全における慢性的な交感神経活動が活動電位継続時間延長に関与して、致死性不整脈発現頻度を引き上げている可能性が考えられる。

 近年、イソプロテレノールなどのアドレナリンβ受容体刺激薬を動物に慢性的に投与すると心室筋活動電位が延長するという報告がされた。しかしながら、一時的な交感神経刺激は心室筋活動電位をむしろ短縮することが、すでに明らかになっていて、交感神経刺激の心室筋に対する影響は、急性期と慢性期で様相が異なっており、大いに注目すべきところであったが、慢性投与における活動電位延長のメカニズムは不明のままであった。

 今回紹介する論文は、アドレナリンβ受容体の慢性効果の細胞内情報伝達が、急性効果のそれとは別なメカニズムによることを示す、重要な内容を含んでいる。

【論文】
Exchange Protein Directly Activated by cAMP Mediates Slow Delayed-Rectifier Current Remodeling by Sustained β-Adrenergic Activation in Guinea Pig Hearts.
Circ Res. 2014 114:993-1003. doi: 10.1161/CIRCRESAHA.113.302982

【目的】
 心室筋細胞の活動電位再分極を決定づける遅延整流性カリウム電流(IK)の慢性βアドレナリン刺激による減少が、細胞内でのExchange protein activated by cAMP(Epac)の活性化によって引き起こされることを示す。

【方法】
 モルモットから得た培養心室筋細胞に30時間にわたってイソプロテレノール(1μM)を投与して、IKの変化をパッチクランプ法および分子生物学的手法により検討した。さらに、13週間わたってイソプロテレノールを連続投与したモルモットから急性単離した心室筋細胞のIKの検討を合わせて行った。

【結果】
 培養心筋細胞においてイソプロテレノール慢性投与は、IKを対照と比較して58%減少させた。IKを形成するKCNE1とKCNQ1の2種類の分子の内、KCNE1のmRNAとタンパクの細胞膜への発現が減少しており、これがIKの減少を引き起こしていると考えられた。このイソプロテレノールの作用はアドレナリンβ1受容体を介しており、cAMPの増大により引き起こされた。しかし、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)は関与しておらず、Epacの選択的刺激薬(8-p-CPT)で再現できることから、Epacの活性化が関与すると考えられた。このことは、アデノウイルスベクターにより導入されたEpacのsiRNAがイソプロテレノールの作用を消失させたことから裏付けられる。

著者プロフィール

●井川修(日本医大多摩永山病院内科・循環器内科臨床教授)●尾野恭一(秋田大生理学教授)●古川哲史(東京医科歯科大難治疾患研究所教授)●村川裕二(帝京大付属溝の口病院第4内科教授)●渡邉英一(藤田保健衛生大内科学講師)[五十音順]

連載の紹介

What’s New in Electrocardiology by JSE
不整脈学や心電図学の主要雑誌の中から、その道の第一人者が「なるほど」とうなった新着論文をピックアップ、新しい知見のポイントを分かりやすく解説します。

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