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BMJ誌から
高齢心不全患者のICD治療、観察研究での適応患者に選択バイアスの可能性
複数のレジストリとメディケアのデータを用いた後ろ向きコホート研究

2014/06/11
西村 多寿子=医療ライター

 高齢の心不全患者を対象にした植込み型除細動器(ICD)の効果評価について、ICDレジストリとメディケアのデータをリンクさせ、患者のベースラインの健康状態と密接に関係のある3つのアウトカム(非外傷性股関節骨折、介護施設への入所、30日の死亡)を検討した。これらのアウトカムは、ICD治療で改善するとは考えにくい指標であるにも関わらず、手術を受けた患者の方が、受けなかった患者よりも大幅なリスク低下が認められた。これまでの観察研究手法を用いたICDの比較効果スタディにおいてバイアスの存在を示唆するもので、その研究成果が5月8日、BMJ誌オンライン版に掲載された。

 ICDの有効性が複数の大規模臨床試験で示されたことを受けて、米国のCenters for Medicare & Medicaid Service (CMS) は、心不全に罹患したメディケア受給者の心臓突然死の一次予防にICDの適応を拡大した。

 ICD治療の適応患者選択について、米国・欧州のガイドラインには「良好な身体機能を保ち、最低1年の延命が期待されること」とあるが、実際の医療現場では、医師の主観的判断にまかされることが多い。 高齢者では、基礎疾患の重症度、合併症や一般的な健康状態に加えて、認知・身体機能や社会的支援状況が、予後に関わるだけでなく、デバイスの選好にも影響する。これらの臨床的・社会的要因は データベースから情報を入手できないことが多い。

 そこでDuke大学准教授の瀬戸口聡子氏らは、高齢の心不全患者のICD治療において、上記のような患者の健康状態を示す指標で観察研究では測定されていない指標が患者選択に与える影響を検討する目的で、複数のデータベースを突合させた後ろ向きコホート研究を行った。

 情報入手には、CMS ICDレジストリ(2005~08)、全米心血管疾患データベースレジストリのICDレジストリ(2005~08)、AHAのGet With the Guidelineプログラムを含む心不全患者の臨床レジストリ(2005~08)、メディケアの保険請求データ(2004~09)を用い、これらのデータベースを4つの非固有識別子(誕生日、性別、ICD植込み手術の為の入院日、プロバイダID)をもちいて突合した(詳細は瀬戸口氏らにより同時期にCirculation CQOで発表された論文参照1))。

 対象は、66歳以上で一次予防としてのICD治療の適応のある心不全患者とした。その上で、実際にICD植込み手術を受けた患者(ICD患者)と受けなかった患者(非ICD患者)を特定した。

 主要アウトカムは、(1)非外傷性股関節骨折、(2)介護施設(“ナーシングホーム”と一般に呼ばれている短期・長期の専門的ケアがうけられる施設)への入所、(3)30日以内の死亡(ICD植込み手術群では術後から、非ICD手術群では退院後から)とした。これらの3つは、ICD治療と直接の因果関係がないこと、心身の弱さやその他の既存の患者特性のマーカーになること、メディケアデータにて高い特異度で測定可能であること、という理由から設定された。 

 選択基準に該当した心不全患者は2万9426例(ICD患者:1万1573例、非ICD患者:1万7853例)で、ICD患者は非ICD患者に比べて、年齢が若く、男性、白人が多く、左室駆出率が低く、心疾患による入院が多い反面、併発疾患は少なく、予防医療を受ける率が高いなど健康志向がみられた。

 4万2580人年の追跡(平均1.4年)で、股関節骨折による入院676例、介護施設への入所9475例、ICD後30日間の死亡は2428例だった。非ICD患者は、ICD患者よりも、非外傷性股関節骨折の発生率が高く(1000人年当たり17 vs. 9)、介護施設への入所が多く(1000人年当たり354 vs. 112)、術後30日間の死亡(1000人年当たり1699 vs. 165)が多かった。

 股関節骨折の3年累積罹患率は、ICD患者2.6%(95%信頼区間[95%CI]:2.3-3.1)に対し、非ICD患者4.8%(95%CI:4.5-5.3)だった。介護施設入所の1年累積発生率は、ICD患者13.4%(95%CI:12.8-14.0)に対し、非ICD患者35.7%(95%CI:34.9-36.4)。生存曲線は、手術直後から2群間の差が大きくなり、その後は並行しながら漸増した。このパターンは、術後30日間の死亡でも同様だった。

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