大規模な後ろ向きコホート研究から、中等度以上の大動脈弁閉鎖不全症(AR)患者に対するレニン・アンジオテンシン系抑制薬(RA系抑制薬)の投与により、総死亡、心血管(CV)イベント、ARイベントの発生が有意に低下することが示された。この英国の研究グループの検討結果は、J Am Coll Cardiol誌11月8日号に掲載された。
現行のACC/AHAガイドラインでは、ARに罹患していても収縮期高血圧が見られない患者、または左室機能正常で無症候性の患者に対しては、血管拡張薬は推奨されていない。だが慢性ARの動物モデルでは、RA系の阻害により左室肥大や左室機能不全の予防が可能であることを示す知見が得られている。
そこで本研究では、レトロスペクティブ、地域住民ベースの縦断的コホート研究の形式で、英国スコットランドの1病院でARと診断された全例を対象に、心電図データベース、地域の処方記録、臨床データを用いて、RA系阻害がARに与える効果を評価した。
対象症例は、1993年9月~2008年7月に心電図データベースで中等度以上のARと診断された全ての患者から、悪性腫瘍既往者を除外した2266例とした。年齢中央値は74歳(四分位範囲:64-81歳)、40%が男性だった。
ベースラインでACE阻害薬が投与されていたのは876例(39%)だった。ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を投与されていた群(ACE阻害薬/ARB群)の方が若年(70歳 vs. 72歳、P=0.01)で、男性比率が高く、左室機能障害(LVSD)、糖尿病、CVイベント既往が多く、他の心血管薬を処方されている割合も高かった。血圧に有意な群間差は見られなかった。
主要アウトカムは総死亡とし、2次アウトカムはCVイベント(心血管死・入院)およびARイベント(心不全による入院・心不全死・大動脈弁置換術[AVR])とした。
追跡期間平均4.4±3.7年の間に死亡は582例(26%)発生した。その内訳はACE阻害薬/ARB群127例(15%)、非投与群455例(33%)で、ACE阻害薬/ARB群の調整後ハザード比(aHR)は0.56(95%信頼区間[95%CI]:0.46-0.68、P<0.01)となった。
2次アウトカムであるCVイベントの発生は合計1069例(47%)、ACE阻害薬/ARB群344例(39%)、非投与群725例(52%)で、ACE阻害薬/ARB群のaHRは0.77(95%CI:0.67-0.89、P<0.01)だった。またARイベントの発生は合計354例(17%)、ACE阻害薬/ARB群155例(18%)、非投与群199例(14%)で、ACE阻害薬/ARB群のaHRは0.74(95%CI:0.56-0.96、P<0.01)だった。
左室拡張期径によるサブグループ解析では、6cm未満の対象者の総死亡HRは0.77(95%CI:0.67-0.90、P<0.01)、6cm超の対象者では0.52(95%CI:0.32-0.86、P<0.001)だった。
左室機能と総死亡との関連では、左室機能正常例ではACE阻害薬/ARBの投与によりHRは0.56(95%CI:0.43-0.74、P<0.001)、中等度LVSD例では0.28(95%CI:0.17-0.47、P=0.01)、重度LVSD例では0.52(95%CI:0.27-1.0、P=0.04)に、それぞれ有意に低下した。
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