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慢性心不全における緩和ケアに挑む

2013/04/16

 心不全患者の終末期には、水分貯留による肺水腫がどうしても改善せず、耐え難い呼吸困難に患者さんが苦しむことがあります。始終水におぼれているような感じで、酸素下でも呼吸困難感が著明になります。

 したがって、2011/4/12の記事「心不全の終末期医療を考える」でも書きましたが、心不全のチーム医療において、終末期医療緩和ケアの概念は外すことができません。しかし、社会的に重要な課題であるにもかかわらず、欧米のガイドラインにもエンドステージでは緩和ケアを考慮するとは記述されているものの、具体的な記載はなく、さらには医療側と患者側双方から大きな誤解が生じています。

 われわれの施設では一歩ずつではありますが、その解決策をチームで検討しています。なお、厚生労働省から「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」、日本緩和医療学会から「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」、日本医師会から「がん緩和ケアガイドブック」などが公表・出版されており、インターネット経由で入手可能ですが、これらを参考にしながら心不全の緩和ケアを構築する必要があると思われます。

 心不全における緩和ケアでは、呼吸困難だけでなく、うつ状態や浮腫、低栄養にも対応すべきで、植え込み型除細動器の停止、心肺蘇生の有無、在宅死についても検討するのですが(J Am Coll Cardiol 2009;54:386-396Circulation 2009;120:2597-2606Eur J Heart Fail 2009;11:433-443)、ここでは臨床上もっとも苦労する呼吸困難緩和のための薬剤使用について焦点を当てます。

1.緩和ケアは安楽死ではない
 まず、もっとも多いのが安楽死と混同して反対意見を述べられる方が多いことに注意が必要です。安楽死は致死量の薬剤を投与するなど、生命を短縮させる積極的意図を持っています。しかし、緩和ケアでは生命予後を悪化させることなく苦痛の緩和を目指します。いずれも同系統の薬剤を用いる可能性があることから混乱が生じていますが、全く違う概念です。

 もとより不適切な緩和ケアがなされれば、生命予後が悪化する危険性も否定できませんが、この点は他の一般の医療行為の場合でも同様であり、緩和ケアだけを特別視することはおかしいと思われます。

2.がんの緩和ケアと、非がんである心不全の終末期の違いに留意する
 次に、がんの末期と異なり、非がんである心不全では集中治療を行えばまた復帰することがしばしば認められます。このことが緩和ケアの導入時期を困難にさせています。導入時期についてはいまだ明確なものはありませんが、下記4で述べる適応基準を満たす時期が薬剤による緩和ケアの導入時期と思われます。

3.緩和ケアは医療側と患者側双方の選択肢の1つである
 緩和ケアについては医師、看護師にも多様な意見があるため、あくまでも選択肢の1つなのです。当院でも私が主治医でない場合は行っていませんし、患者側が希望されない場合もあります。薬剤による緩和ケアを行わない場合、心不全の呼吸困難が悪化したときは、人工呼吸器を装着して鎮静を行い、そのまま終末期を迎えることになります。

4.押さえておくべきと思われるポイント
 末期心不全について薬剤による緩和ケアを行う場合に満たす条件は箇条書きにすると、以下のようになると思われます。

■ 適応
1)全身状態、検査所見などを総合した結果、最適な薬物治療等を継続したとしても生命予後は数日であり、生命予後を改善する治療法がない状態であると判断されること
2)患者には耐え難い呼吸困難などの苦痛があり、その苦痛が従来の治療では改善しない状態にあると判断されること


■ 目的
呼吸困難などの耐え難い苦痛を緩和する作用を期待するものとする。生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死ではなく、患者の苦痛の鎮静のみを目的とする。


■ 方法
麻酔作用や鎮静作用のある薬剤を少量用いる。生命予後を悪化させず、苦痛緩和を期待する少量投与を行うため、薬剤の使用によっても十分な鎮静の効果が得られない場合があり得る。


5.当院の状況
 当院では上記の内容について、当院の顧問弁護士、同意書委員会に相談のうえ、鎮静に関する承諾書を作成しました(写真)。緩和ケアを実際に行う時は、上記の適応条件を満たすことを確認の上、医療側は心不全チームカンファレンスで承認を得ること(当院では心不全チーム医療カンファレンスを2009年より行っています。2012/8/14記事「心不全多職種チームの立ち上げとその目指すところ」参照)、緩和ケアナースの承認を得ることとし、患者側は本人または家族の一致した承諾が得られることとしました。同時に、心肺停止時の蘇生についても家族と話し合います。

著者プロフィール

佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介

佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。

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