急性心筋梗塞のバイオマーカーとして登場してきたトロポニンが、心不全のリスク評価でも使用可能なことがガイドラインにも記載されたところまでを前回、前々回で述べました。今回は、高感度測定系を用いるとさらに数値が低い高血圧、一般住民を対象とした検討ができるというお話です。数値が検出された場合、(1)現在の何を意味しており、(2)将来の何を意味するのか――を述べてみます。
ちなみにBNPが心不全を除く高血圧患者、一般住民で検出された場合、その数値は心不全で検出されるよりも低く、数値は心肥大などと相関し(Hypertension 1996;28:22-30、J Am Coll Cardiol 2012;60:960-968)、そのわずかな数値の上昇が10年後の心血管イベント発症の危険因子であることが報告されています(N Engl J Med 2004;350:655-663)。高血圧患者、一般住民が心血管イベントを生じるには10年単位の観察が必要です。また、興味深いことにBNPは心不全のバイオマーカーとして登場しましたが、必ずしも将来の心不全発生率だけを予測するのではなく、脳卒中などの新規発症の予測因子としても報告されています。
高感度トロポニンT: 現在ある潜在的、無症状の病変のスクリーニングとして
明らかな心疾患を除外した母集団において、従来のトロポニンT測定法では0.01 ng/mL以上のTnTが検出される頻度は、0.7%と報告されていました(Circulation 2006;113:1958-1965)。しかし高感度トロポニンT(hs-TnT)では0.003 ng/mL以上が検出される頻度は、一般住民において25-80%と報告されています(JAMA 2010;304:2503-2512、JAMA 2010;304:2494-2502、Am HeartJ 2010;159:972-978、Circulation 2011;123:1367-1376) 。
われわれの心不全を除いた高血圧症例での検討では、hs-TnTは80%の患者で0.003 ng/mL以上であり(J Cardiol 2011;58:226-231)、その値は平均で0.008-0.009 ng/mLと心不全で検出されるhs-TnT値よりもさらに低い数値でした(J Cardiol 2012;60:160-167、図1)。
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著者プロフィール
佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介
佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。
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