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最近の高感度トロポニン測定系はここまですごい【心筋梗塞編】

2012/08/09

 今回から3回シリーズで高感度トロポニン測定のことを述べます。私の4年間にわたる記事の中でトロポニンをまとめるのは今回が初めてですが、われわれの施設では15年以上にわたって、心不全患者におけるトロポニン測定の意義を検討し続けています。そもそもは心筋梗塞のバイオマーカーであったトロポニンが、心不全のリスク評価にも使用可能であることが判明し、さらに最近開発された高感度法では低値部分の検出も可能となったため、実数の変化、高血圧における心筋障害の検出も可能となってきました。

高感度トロポニン測定系

トロポニン複合体(トロポニンT,C,I)は、骨格筋と心筋の両者において横紋筋のアクチンとミオシンの間のカルシウムを介した筋収縮の調節を行っていますが、心筋トロポニンIは90%以上が心筋細胞の構造フィラメント上に存在し、数%が心筋細胞の細胞質に存在します。可逆的な心筋障害の場合、トロポニンは心筋細胞の細胞質から血中へ流出し、心筋細胞が非可逆的に障害を受けると、フィラメント上から流出すると考えられています。血中心筋トロポニンの測定系は骨格筋と交差しない心筋特異的な抗体を用いており、心筋トロポニンは2000年の欧州心臓病学会/米国心臓病学会(ESC/ACC)急性心筋梗塞診断改定より、急性心筋梗塞の診断基準に記載されるようになっています(Circulation 2007;116:2634-2653)。
 
 トロポニン測定系はガイドラインの中でも「健常者の99パーセンタイル値におけるcoefficient of variation(CV)(変動係数)[CV(%)= SD(標準偏差)÷平均値(mean)x 100(%)]が10%以下である測定試薬」が高感度測定系として推奨されています。従来のトロポニン測定系は数値のばらつきが大きく、低値部分も正確でなかったため、陽性か陰性かしか判定できないものが多かったのですが、高感度法では実数のばらつきが少なく低値も正確です。日本で代表的な高感度測定には高感度トロポニンT(Roche Diagnostics:健常者の99パーセンタイル値0.014 ng/mL、10%CV値0.013 ng/mL)とCentaur TnI-Ultra (Siemens社:健常者の99パーセンタイル値:0.04ng/mL、 10%CV値0.03ng/mL)があります。当院ではロシュ高感度トロポニンTの実数値は0.003 ng/mL、Siemens 高感度トロポニンIは0.000 ng/mLまで実数値を表示しています。

 測定値が影響を受ける患者背景因子として性別(男性がやや高値)、年齢(高齢者が高い)、腎機能(トロポニンTはIより腎機能の影響を受けやすい)などがありますが、各社の各測定系によってすべて認識されるエピトープが異なるために、各測定系によって影響の受けやすさはすべて異なります。したがって、高感度トロポニンTの実数はトロポニンIに換算できませんし、他社の測定系にも換算できません。

急性心筋梗塞における高感度測定系

 心筋梗塞では冠動脈閉塞部遠位の心筋が虚血になるため、トロポニンが血中に流出します。このため、トロポニン測定は急性心筋梗塞の診断補助として用いられるわけですが、従来のトロポニンは、CK-MB、ミオグロビンよりも遅れて上昇するために、超急性期の診断には弱い指標と考えられていました。しかし、この記述は高感度トロポニン測定系の登場により、大きく変わることになります。代表的な結果として、Reichlinらは、718例の急性心筋梗塞において、高感度トロポニン測定系では従来のトロポニン測定系よりも超急性期から診断能が優れていることを示しました(N Engl J Med 2009;361:858-867、図1)。

著者プロフィール

佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介

佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。

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