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心不全のチーム医療・病診連携への試行錯誤●その9
心不全患者における性的問題の考え方

2011/08/31

 このテーマに関して、日本の心不全の教科書に書いてあることは、それほど多くはありません。医学書には、運動強度を基にした記載があり、NYHA II度くらいまでの心不全患者であれば運動強度からは性行為は可能であるとしています。ではチーム医療の視点として、どのようなことを考えるべきなのでしょうか?

 欧米の対象患者年齢はやや若いようで、平均年齢55歳[1]、65歳[2]という報告もあります。もちろん、もう少し高齢の患者が対象の研究もありますが、高齢者を多く含むほど、性的問題の頻度は多い数字が記載されることが予想されます。

 欧米では、まず性生活に関する問題点をいくつかに分けて分析しています。

(1)合併症として糖尿病がある場合、男性の性的機能不全を生じやすい
(2)性行為が心臓発作を誘発する可能性がある
(3)心不全治療薬であるβ遮断薬は、男性の性的機能不全を助長することがある
(4)性的機能改善薬であるPDE 5阻害薬は硝酸薬との併用で過度の低血圧を生じることから、硝酸薬を使用する患者には禁忌である

 心不全患者では、性的興味も薄れることが報告されています[3]。しかし、欧米でさえも性的な話題は医療現場では避けられる傾向にあり、看護師ですらカウンセリングの必要性を感じながら、なかなか実行できないでいるようです[4]。

評価するときの注意事項として、以下のことも考えなくてはなりません[5]。

(1)プライバシーの保たれた部屋での質問
(2)患者との信頼関係を構築する
(3)正しく、ていねいな文章で患者と会話する
(4)話を切り出すタイミングにも注意をはらう
(5)内容は男女で異なる

 しかし、ここで考察を終わってはいけません。心不全を合併していてもNYHA II度くらいまでなら男女ともに性行為自体は危険なく可能なので、若い心不全患者であれば妊娠する可能性もあります。虚血性心不全や高血圧性心不全は高齢者の疾患なので、可能性として考えられるのは、先天性心疾患患者、若年発症の拡張型心筋症患者、もしくは産褥性心筋症の場合などです。

 心不全患者が妊娠した場合の問題点は、母体にかかる血行動態負荷と、胎児にかかる低酸素血症・薬剤の影響に大別できます。

 「心疾患患者の妊娠、出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版)」では、NYHA I~II度で母体死亡率は0.4%、III~IV度では6.8%、胎児死亡率は30%という記述があり、胎児は母体よりもはるかに弱く、母体に負担がかかり始めると、もはや生存できないことを示しています。

 妊娠時に母体の循環血漿量、心拍出量は50%近く増加するといわれています。したがって、たとえ妊娠前はNYHA I度の状態であって、内服が中断できるくらい良好な経過だったとしても、妊娠後に心不全症状が悪化する可能性は十分にあります。
 

著者プロフィール

佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介

佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。

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