日経メディカルのロゴ画像

慢性心不全に合併する貧血の治療
赤血球造血刺激因子(ESA)をどう使うか

2011/01/24

 今回は、慢性心不全に合併した貧血治療についてまとめます。透析患者の腎性貧血の場合は、治療のエビデンスがありガイドラインも出ているのですが、心不全に関しては混沌とした状況です。

 しかし、心不全の貧血治療について、鉄剤投与、エリスロポエチン投与の結果や、メタ解析結果が少しずつ出てきており、2010年9月からは、ダルベポエチンが透析患者以外の腎性貧血にも使えるようになりました。そこで心不全患者の貧血治療について、腎性貧血のガイドラインと照らし合わせながら考えてみたいと思います。

心不全患者において低ヘモグロビンは予後不良

 慢性心不全患者において低ヘモグロビンが予後不良であるという報告は、数多く出ています。症例数が多いものとして、例えばアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)カンデサルタンを用いた大規模ランダム化比較試験(RCT)であるCHARM試験のサブ解析があります。

 WHOの貧血の定義で(男性:Hb<13g/dL、女性:Hb<12g/dL)貧血患者は全体の25%に認め、貧血患者におけるヘモグロビンの中央値は11.8g/dLでした。また、貧血は独立した予後規定因子でした。そうすると、ヘモグロビン値を補正することにより、予後改善が期待できるかどうかの検討が必要になります。

腎性貧血治療のガイドラインにおける考え方

 慢性心不全における貧血治療を考える前に、腎性貧血の治療についてまとめてみます。腎性貧血の治療については古くから検討されていますが、最近インパクトのあった研究として、エリスロポエチンを投与したCREATE試験[1]、CHOIR試験[2]、最も症例数が多くダルベポエチンを投与したTREAT試験[3]があります。

 これらの結果は一貫しておらず、高ヘモグロビンを目標とした群の心血管イベントについて、CREATE試験は差を認めず、CHOIR試験ではむしろ増加し、TREAT試験では脳梗塞が増加するというものでした。

 CREATE試験やCHOIR試験の結果を踏まえ米食品医薬品局(FDA)は、目標ヘモグロビン値の上限を設けるべきとし、日本腎臓学会による『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009』でも、「ESA(erythropoiesis stimulating agent)の投与開始基準はHb 11g/dL未満とし、過剰なESA投与、貧血の改善をさけるために、13g/dL超を休止基準、心血管合併症がある患者の上限は12g/dL」と記載しています。

 ちなみに鉄剤の補給に関しては、「裏づけ論文はないが鉄剤補給は原則経口投与、不十分な場合には静注投与を行う」としています。

 しかし、その後CHOIR試験について実際に到達したヘモグロビン値を検討したところ、到達ヘモグロビン値が高い方が予後良好であったことが判明しました[4]。

 目標ヘモグロビン値が高かった群で予後不良だったのは、ESA低反応性の患者に大量のESAを投与した結果、有害事象が生じたのではないかと推測されるようになったのです。TREAT試験についても、ESA低反応が心血管イベントを悪化させる本質的原因だったと、最近報告されました[5]。
 

著者プロフィール

佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介

佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。

この記事を読んでいる人におすすめ