昨年、リラキシンの急性心不全における治療効果がPre-RELAX-AHF試験として報告されました1)。しかし、そもそもリラキシンとはどのような物質で循環器系ではどのような効果が期待されるのか、総論が出ていないこともあり日本での記事紹介もほとんどないまま1年が経過しました。今回、Pre-RELAX-AHF試験の研究グループによるリラキシンの総論が出たので、まとめてみました2)。
リラキシンとは
リラキシン(relaxin)は、妊娠早期に上昇するホルモン(分子量6 kDa)で1926年に発見されました。妊娠中に心拍出量が20%増加、全身血管抵抗が30%減少、腎血流が45%増加するという現象を調節するホルモンと考えられています。心不全患者では男性、女性とも、心筋細胞、間質細胞でのリラキシン遺伝子の発現が生じ、血中濃度が代償性に増加すると報告されています3)。
ではリラキシンの作用について、ヒト、実験動物ではどのようなデータがあるのでしょうか? 16例の慢性心不全患者においてSwan-Ganzカテーテルを用いて検討した結果、リラキシンは肺動脈楔入圧、全身血管抵抗を低下させ、心拍出量を増加させました4)。健常者における腎血管拡張作用も報告されています5)。
実験動物では、腎血管拡張、腎血流増加6, 7)、エンドセリンを介した血管収縮の抑制<sup)などをはじめ、リラキシン欠損マウスでは心筋繊維化が増加しリラキシン投与により繊維化が抑制される9)、ラット関節炎モデルにおいてリラキシンが抗サイトカイン作用を持つ10)、ブタ心筋梗塞モデルにおいてリラキシン投与が抗ヒスタミン、抗肥満細胞作用を発揮する11, 12)――などが報告されています。
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著者プロフィール
佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介
佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。
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