前回は末期心不全患者の栄養管理について述べました。では、心血管イベントと食生活の関連については、どこまで分かっているのでしょうか?
2009年3月21日の本ブログ「イヌイットの心筋梗塞が少ない理由」では、不飽和脂肪酸のうち魚油に多く含まれるn-3系不飽和脂肪酸の摂取には心血管イベントの抑制効果があり、一方、動物性飽和脂肪酸やマーガリンに含まれるトランス脂肪酸は心血管イベントを増加させる方向に働く可能性があることを述べました。
動脈硬化病変の進展に炎症が大きく関与することは、多方面の研究から既に間違いのない事象です。そして食生活は、直接、間接的に炎症に影響を及ぼしています1)。影響を及ぼすのは、何も脂肪酸だけではありません。野菜、果物、胚芽を含んだ全粒穀物の摂取が心血管イベントの抑制によい影響を与えることが知られています。今回は主に、食事と炎症と心血管病変の関連について述べたいと思います。
果物、野菜
果物、野菜が心血管病変の予防に効果を発揮することは種々の研究が示しています。疫学研究と、介入試験を基に解説しましょう。
まず、疫学研究としては、Joshipuraらが8万4251例の女性と4万2148例の男性のデータを検討した報告があります。背景因子を補正すると、果物と野菜の摂取が、追跡した被験者の冠動脈脈病変のリスクを下げていたことが分かりました2)。
またGaoらは野菜や果物の摂取がCRPの低下と相関することを報告しています3)。その作用機序としては、野菜、果物中のビタミン4,5)、フラボノイド、食物繊維などが炎症を抑制する可能性が考えられています6)。
介入試験としては、大規模なものではありませんが果物ジュースを飲んだり7)、野菜、果物の摂取量を増やすことで8)CRPが抑制されたとの報告があります。
全粒穀物
全粒穀物とは、精製しないで、あるいは精製度を低くして、胚芽などを残した穀物を指します。小麦全粒粉、バルガー(挽き割り小麦)、全粒コーンミール、玄米などがこれに当たります。
一般的な小麦粉などの精製穀物では、胚芽などは除かれています。それによって食感が良くなり保存性も向上しますが、食物繊維、鉄、多くのビタミンB群が除かれていて、血糖値を急激に上昇させやすくなることが知られています。
※精製穀物食品にはビタミンB群と鉄が加えられているものが多いが、繊維は加えられていない。
疫学研究としてはLiuらが実施した、7万5521例の女性を対象とした試験があります。全粒穀物の摂取が、ほかの危険因子とは独立して、脳卒中のリスクを軽減していることを報告しています9)。またJenssenらは、全粒穀物の摂取が冠動脈疾患のリスクを軽減させることを報告しています10)。
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著者プロフィール
佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介
佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。
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