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腫瘍性疾患の診療におけるバイオマーカーの利用
化学療法で起こる心筋毒性は血液検査でチェックできます

2009/05/22

 腫瘍性疾患に対する化学療法は、外科治療、放射線治療と並んで重要な治療選択肢の1つです。なかでも血液内科の領域においては、白血病やリンパ腫の治療の主軸となります。

 一方で化学療法の薬剤には心筋毒性を生じるものがあり、合併症として心不全が生じ、予後にまで影響することがあります1)。当院でもそのような症例に遭遇するのですが、最近までは、X線写真上である程度心陰影が拡大して初めて疑われて、心エコー検査で疑いが濃厚になる―という症例が多かったと思います。呼吸困難の悪化といった自覚症状の変化がなければ、そもそも胸部X線写真を数カ月撮らなかったということもあり得ます。

 一方、血液疾患の治療指標は血液所見であるため、採血は頻回に行われています。私の専門であるバイオマーカーは、血液検査での評価が可能です。ですから採血のついでに、時々、心臓関連のバイオマーカーをチェックして心毒性が生じていないか確認すれば、一石二鳥といえます。では、バイオマーカーから、心毒性についてどの程度のことが分かるのでしょうか?

 心負荷の代表的バイオマーカーとしてはヒト脳性ナトリム利尿ペプチド(BNP)とヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)があります。これらは心不全の診断補助と予後の推定に用いられています。心筋障害の指標としては心筋トロポニンが、急性冠症候群の診断だけではなく、心不全における微小心筋障害を反映することが分かっています。

 さらに血中心筋トロポニンT(TnT)、心筋トロポニンI(TnI)は、心不全の予後推定において、BNP、NT-proBNPとは独立した指標になるとして、Circulation誌に掲載された国立臨床生化学検査アカデミーの「心不全バイオマーカーガイドライン」にも記載されています2)。今回は、この2つのバイオマーカーを中心に述べてみたいと思います。

 まずBNP、NT-proBNPについてです。代表的な論文としては、「Clinical Chemistry」というバイオマーカーなどの専門誌 (インパクトファクターも高い雑誌です)に、Sandriらが報告した試験があります。化学療法を行った52例の患者において、0、12、36、72時間後のNT-proBNPを測定した後、1年間フォローした検討結果です3)

著者プロフィール

佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介

佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。

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