前回、心不全患者へのβ遮断薬使用で迷いがちなケースについて述べました。すでにβ遮断薬を投与されている慢性心不全患者が急性心不全で入院した場合にβ遮断薬投与を継続するか? に対する、現在得られているエビデンスからの答えは「可能な限りβ遮断薬は継続投与する」でした。
今回は、もう1つのケースについて考えてみましょう。すなわち「心不全患者は、末期になるほど収縮期血圧が低くなる。血圧値が極めて低くなってもβ遮断薬を使用すべきか?」です。
慢性心不全の大規模試験を見るとよく分かるのですが、β遮断薬の処方率は年々増えています。例えば、ARB(バルサルタン)の慢性心不全患者への投与の効果を報告した2001年のVal-HeFT試験ではβ遮断薬の併用率は35%でした1)が、n-3系不飽和脂肪酸の心不全患者における効果を最近検討したGISSI-HF試験では、β遮断薬の併用率は65%です2)。
また、急性心不全のレジストリーであるADHERE試験では2002年から04年の間に、β遮断薬の処方率は63%から82%へと増加したと報告しています3)。実際、私たちの兵庫県立尼崎病院でも、β遮断薬の処方率は、10年前は20%程度でしたが、現在は80%に達しています。
このように慢性心不患者においてβ遮断薬の処方率が増加している原因としては、前回も述べたように、臨床試験がさかんに実施されるようになった「大規模試験の時代」から、その成績を基に標準的な医療が構築されはじめた「ガイドライン作成の時代」を経て、今はそれを生かすための「患者教育、処方の徹底の時代」になってきたからだといえるでしょう。
しかし、それでも処方率は100%にはなりません。その理由は、慢性心不全患者は末期になるほど、自然経過とともに心不全悪化、全身倦怠感、徐脈、低血圧を来しやすくなり、β遮断薬投与は困難になるからです。ではそういった患者さんにはβ遮断薬を処方しないでよいのでしょうか?
この問いに対する回答はCOPERNICUS試験(注)の収縮期血圧のサブ解析として詳細に報告されています4)。
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著者プロフィール
佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介
佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。
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